最終更新日:2022/08/25
”1on1ミーティング”が注目されてしばらくが立ちますが、相変わらずいろいろな本が出版されています。(当社は本屋が祖業です。念のため・・。)つまり、単に1対1で話せば良いという簡単なものではないということです。それは、効果が実感できるか否かはもちろんのこと、継続的に実施することも難しいからだと思います。
かく言う、私も、昔は、なかなか継続的にできなかったクチです。
そこで、本日は、私と同じように1on1などのスタッフとの対話を初めてみたは良いものの、
「定期的な対話が継続できない」「効果が実感できない」「もっと、うまくできるはずなのに・・・」などのお悩みをお持ちの経営者や中間管理職、人事担当者さんに向けて、私がこれまで学んできたことをお伝えしたいと思います。
このコラムをお読みいただくことで、少しでもみなさまの思考がすっきりして、継続的かつよい対話が実施できるようになればとてもうれしく思います。
いつも通り、リラックスしながらお読みいただきつつ、ちょっとした気づきがあなたの中に生まれてくれることを願いつつ、書きました。
もし少しでも興味を持たれましたら、あなたにもコーチを目指していただいても良し、コーチングを受ける側になっても良し、とにかく行動していただきたいのです。そして、身近な誰かに貢献し、身近な誰かから学びましょう。
▼質問の最大の目的は「選択肢を増やすこと」
“1on1ミーティング”などの機会を通じたスタッフとの対話(質問)がトップや管理職の大切なお仕事だといろいろなメディアで言われています。
それはなぜでしょう?
対話の最も基本的な効果は、「信頼関係の構築」です。この“信頼関係”がなければ、そもそも組織として成立しませんし、離職やトラブルの原因にもなりかねません。また、顧客との接点や製造現場で、あなたの代わりとして、または、あなた以上に活躍を期待しているのに、それが叶いません。
この基本的な効果を除いた対話(質問)の最大の目的は、「相手の中に選択肢を増やすこと」です。
それ以外にも「観察の幅を広げること」「人を不安定な状態に移動させ、行動を起こさせること」などがあります。
では、まず、この「選択肢を増やすこと」がどれほど大切なことなのかについて一緒に考えてみましょう。
あなたにも経験があるかとは思いますが、「これだ!」ってひらめいたアイデアほど、あとから考えるとイマイチなことが多いのです。英語でも“ジャストアイデア”といって、軽く扱われています。ですから、最低3つ以上のアイデアを考え出し、それぞれを評価をして、最適な行動を決定していくようにしたいのです。
なんだか面倒なことのように聞こえますが、マネジャークラスになれば、自然と頭の中で瞬間的にやっている現象だと思います。しかし、社会経験がまだ浅かったり、仕事柄、分析や判断業務の経験が少ないスタッフには、“選択肢をいくつか思い浮かべて、より良いものを選ぶ”ということに不慣れなのです。
私のクライアントのマネジャー曰く「彼らの行動が不思議でしかたがない。ちょっと考えればわかりそうなことなのに・・」「なぜあいつはこんなことばかりするんだ?」「なぜちゃんとできないんだ?」といつも愚痴っています。
でも私たちも、慣れないうちは彼らと同じようなことをしていたのだと思います。
さて、話は、1on1ミーティングに戻します。話はとてもシンプルです。対話を通じて、職場全体の課題や、彼らの仕事上の課題を一緒に洗い出し、解決策を質問によって引き出します。そして最後に「それで、あなたはどうしますか?」と聞いてあげればよいのです。
彼らは、頭の中に並んだ解決策にメリットデメリットをつけて、どれかを選択するはずです。その選択肢がベストなものでないとしても、そこからPDCAが始まり、いずれ、マネジャーと同じ結論に至るはずです。しかも、その結論は、彼らが自分自身で見つけ出したものですから、その推進力は、あなたの指示よりももっともっと強力なはずです。
もし、万が一、よりよい結論に至らず、お客様に迷惑をかけそうなものを選択しそうになったら、マネジャーの出番です。「なぜその選択肢を選ぶ背景を教えてください。その選択肢のメリットとデメリットは?」と質問してあげてください。
▼質問を考えるヒント
対話(質問)が大切なことは、わかった。
でも・・・。そうなんです。私も同じ悩みを持っていました。「どうしても、質問攻め。つまり詰問になってしまう。」
私は、自分のコーチにこのことを質問してみました。
「なるほど。詰問になってしまうと。でもそのことに山本さんは、気づいているわけですね。ではどのように行動しますか?」と逆に質問されてしまいました。
つまり、詰問に気づいているということは、なんとか詰問ではないような聞き方をしたいと考えているわけです。つまり、徐々にではあっても修正されていくはずなので、心配無用とのことでした。(それでも心配な方のために、具体的な防止策を、後ほどお伝えしますね。)
では、私たちは、いったい何を聞けば良いのでしょうか?
よい質問とは、先述の通りです。「相手の中に選択肢を増やすこと」ができる質問ということになります。そして、よい質問の作り方のキーワードは、“いつ、どこ、だれ、何をどのように?”などが代表的なものです。
たとえば「いつ」をヒントにした場合
「もし、今の自分を3年後から見たとしたら、今取り組んでいるものの中で、『これはやらなくてもいいな。』ということはどのようなことですか?」
「逆に1年後から今を見たとき、今すぐ始めたほうがいいことは何ですか?」
「どこ」というキーワードを利用した場合
「一歩引いて、天井から自分を見たら、どのように見えるでしょうか?」
「だれ」だと・・・
「もし、あなたが相手の立場だったらどんなメリットがありそうでしょうか?」
「何をどのように」だと
「もし、明日が締め切りだとしたら、まず何から手をつけますか?」
▼質問を使い分けるとは?
なんとなく、できそうな気がしてきましたでしょうか?ここからは、少し抽象度を上げてみましょう。
質問には、相手に求める答え方によって2種類の質問方法があります。クローズド・クエスチョンとオープン・クエスチョンです。対話の場面で用いるのは、“オープン・クエスチョン”と言われていますが、それぞれに特長があり、使い分けることができれば、よりよい対話を作ることができます。
クローズド・クエスチョンは、YESかNOを答えさせるタイプの質問です。これは、事実を明確にするときや、答えを早く要求するときに使います。
例えば、
「報告書は全員から上がっていますか?」
「今やっていることは、あなたが本当にやりたいことですか?」
「あなたは本当にそれをやりますか?」
このようにクローズド・クエスチョンでは、解や事実が素早く得られます。しかし、相手の思考にそれ以上の広がりをもたらすことができないというデメリットがあります。また、詰問調になってしまうケースが多く、注意が必要です。
先程書いた、詰問調になってしまう具体的な原因は、“クローズド・クエスチョン”にあるのです。
一方、オープン・クエスチョンには、話しながら思考を深める効果が期待できます。それまで気づかなかったことに気づいたり、理解を深めたり、新しい発見をしたりすることが期待できます。
例えば、
「仕事から、何を手に入れたいと思っていますか?」
「この問題を解決するのに、どのような方法がありますか?」
「それを実現するために、あなたには何ができますか?」
しかし、オープン・クエスチョンも万能ではありません。話しながら考えるため、時間がかかるというデメリットがあります。
オープンクエスチョンでは、「What(何、どんな)」「Why(なぜ、どうして)」「How(どうやって)」と組み合わせることで、テーマを明確にすることができます。
また、「Who(誰)」「When(いつ)」「Where(どこで)」と組み合わせることで、今後、どのような行動をとるかを決めることができ、行動に繋がりやすくなります。そして、次の対話の機会には、前回以降どのような行動を実行したのかについて振り返り、テーマについて対話を通じてさらに深堀りすることができます。
▼チャンクを大きくしたり、小さくしたりすることも対話を深めるコツです。
チャンクとは、テーマを切り取った話の大きさのことです。
例えば、時間軸で考えた場合「学生時代>今週>今朝」といった具合です。
つまり、セッションで取り扱うテーマに適したちょうどよいチャンクの大きさに調整しながら対話することで、思考がより深まることが期待できます。また、テーマをスライド(話を変える)させることも効果的です。
具体的には、
チャンクダウン(話をより具体的にすること)をさせることで、テーマは具体的になり、行動レベルにまで落とし込むことができます。
例えば・・・
「それは、どのようなときに起きるの?」
「具体的に例を挙げて説明してくれる?」
一方で、スモールチャンクが過ぎると、本来の目的を見失いがちになります。手段の目的化などがよい例です。この場合、チャンクアップさせることで全体をイメージでき、本来の趣旨に思考を戻すことができます。
例えば、
「事業計画を立てるということは、いったいどこへ(どの目的に)つながっているのかな?」
「それは、一言で言うと、どういう状況?」
また、話題を転換しながら全体を探るためにスライドアウトという質問方法も有効です。簡単に言うと話を逸らすようなイメージです。いくつかのテーマを振っていくことで、気づきが得られる場合があります。
「ところで話は変わるけど・・〇〇はどうなってる?」
「そうです!そのことを忘れていました!」「そうか、〇〇と関連付けても考えることもよさそうですね!」というイメージです。みなさんもそういう経験ってありますよね?
▼単に質問するのではなく、目的を持って聞くことが大切
このように対話のテーマを大きくしたり、小さくしたりすることだけではなく、ひとつひとつの質問の目的も意識することができれば、今よりもっとよい対話が生まれるでしょう。
例えば、
・リソース(使えそうなネタ)を探す
・モデル(マネする相手)を見つける
・視点を変える
・他の選択肢を絞り出す
・問題をはっきりさせる
・価値観を知る
・考えを整理する
・気づき、発見を促す
・モチベーションを上げる
まだまだいくらでもありますよね?
「リソースを探す」では、目標を達成するために必要なリソースを見つけるための質問をします。リソースとは、話し手だったり、チームメンバーや組織自体がすでに持っている強みなどを指します。
例えば、
「以前、目標を達成するときには、どんな準備をしたのかな?」
「前回のプロジェクトを実現するために最も大切なものは、何でしたか?」
例えば、
「視点を変える」では、新しい視点で目標達成のためアイデアを手に入れます。先述の「時間軸を動かす」「空間を移動する」「立場を変える」などが具体例です。
「天井から自分を見たら、いまどんな風に見えるだろう?」
「あなたがもし、社長の立場だったら、今回の事をどう思いでしょう?」
マネジャーの答えに誘導することなく、でも、組織で共有できるよい解を探すためには、目的を持って質問することが有効です。
▼問い(質問)を共有することの効果
ここまでお話したように、“対話イコール質問”かつそれは、問いの共有でもあります。
問いを共有することは、対話を活性化させる働きがあります。別の記事で一つのキャンバスに向かって絵を描く話をお伝えしたと思います。
例えば、
「お客さまはうちの会社にどんな価値を求めているんだろう?」
「うちの会社の将来像についてどう思う?」
未来の問いを共有することで、相手に不安定・不確実な状況をイメージしてもらうことができます。その効果として、自律的・自発的な行動が生まれやすくなります。
しかし、強要することは、単なる脅迫につながるだけで、思考が深まることはありませんので注意が必要です。
例えば、未来の問いを共有することで生まれる行動には、こんなことがありそうです。
・未来について考える姿勢
・自分の責任、自分の役割に対する意識
・「分かったつもり」から、「行動への動機」へ
また、問いを共有することは、自分たちのサービス品質を高めるためにも有効です。
具体的には、問いの共有によって自分たちで考えてもらう機会を作るという仕掛けです。
「お客さまがお越しになったら、××をしてください」ではなく
「みなさんは、お客さまがお越しになったらなにを提供してみたいですか?何をしたら喜ばれると思いますか?」と問いかけるのです。
「たったそれだけ?」と考えたかもしれませんが、このように問いを共有することで思考は深まり、メンバー間に対話「どうすれば、お客さまが喜ぶか?」が生まれるはずです。これが、サービス品質の改善に繋がらない可能性がどれだけあるのでしょう?
▼効果的な質問をするコツ
たいへん前置きが長くなりました。申し訳ありません。最後に、明日から対話(質問)の質をアップさせる具体的な8つのコツについて考えてみたいと思います。
1.マネジャーは、対話をはじめる前に「どのような質問を投げかけるのか」を考えておく
事前に話の内容や目的が決まっているのであれば、どのような質問を投げかけ、どのような会話にしていくかをイメージしておきましょう。
「事実を確認するのか」「可能性の幅を広げるのか」「注意を喚起するのか」「同意を得るのか」
これによって、質問が思いつかないというリスクを減らすことができ、当日の自分の感情のコントロールもしやすくなります。
2.マネジャー自身が持っている答えに誘導するような質問はしない
事前に準備をすることは、そのシナリオに相手をはめ込みたくなるというリスクを伴います。くれぐれも気をつけてください。それは、相手に発見を促したり、問題解決に向かわせたりするための質問とは正反対です。つまり詰問になる可能性も高まります。詰問からは、何も生まれません。
3.マネジャーは、根本的な問題を明確にするための質問をつくる
例えば、
「利益を上げるための手段は、コスト削減か、売上アップしかないが、あなたはどちらがいいですか」といった二者択一の質問。つまりクローズド・クエスチョンではなく・・・
「利益を上げるために、私たちができることはどんなことがあると考えてる?」のように自由に発想できる質問をすべきです。さらに「利益が上がらない、そもそも原因ってなんだろう?」と質問する方がさらに効果的かもしれませんね。
4.時には、エッジの効いた質問をすることも有効です。
本人がまだ気づいていない、無意識の中にあるものを明らかにするためには、無茶ぶりとも言える非常識な質問も時には有効です。これをエッジの効いた質問と言います。
「例えば、売上を今の10倍にするとしたら、今やっていることの何を変える必要があると思う?」
「現在行っていることのスピードを5倍に上げなければならないとしたら、あなたなら何から手をつける?」
5.目的に合った言葉を使う
質問の言葉でさえ相手からの答えに大きな影響があります。
たとえば、「『正確には』どういう意味ですか?」と「それは、どういう意味ですか?」という質問をされたと想像してみてください。きっと答え方が違うと思います。「正確には」と前置きすることでより相手の思考が深まります。
6.質問は1回につき一つだけにする
同時に二つ以上の質問をすることは、混乱や責任逃れを招いてしまいがちです。問いは、1回につき一つだけにしてください。まとめて質問をするような手抜きは禁止です。
7.マネジャーは、質問をされたら、まずは答えてOK
もし相手がマネジャーに意見を求めてきたり、これまでの経験について話してほしいと言ってきたりしたときは、ぜひ積極的に話してください。
ただし、あなた個人の経験として語るにとどめておくことが大切です。相手に押し付けたり、説教っぽくなってはいけません。もしかしたら、後から「話しすぎたかな?」と反省してしまうかもしれませんが、無理もありません。なぜなら、人は、それだけ話を聞いてもらうことが好きだからです。身をもって体験したことになります。
8.継続は力なり
最後のコツは、根性論です。申し訳ありません。
何もせずにレベルアップする人などいません。マネジャーとしてよい質問を投げかけられるようになるためには、練習、練習、そしてまた練習です。
私も日々練習しています。ご一緒に頑張りましょう。
▼まとめ
いかがでしたでしょうか?
本日は、よりよい対話を継続的に実施するための質問術について考えてみました。
質問の最大の目的は「選択肢を増やすこと」
質問を考えるヒント
質問を使い分けるとは?
チャンクを大きくしたり、小さくしたりすることも対話を深めるコツ
単に質問するのではなく、目的を持って聞くことが大切
問い(質問)を共有することの効果
効果的な質問をするコツ
いろいろと思いつくままに記しましたが、実はそう簡単ではありません。でも、私たちマネジャーは、これらを期待されているのです。
明日からといわず、今日から、気づきをもとにあなたなりに実践をしてみてください。良い聞き手になるためには、何よりも日々のトレーニングが一番大切だからです。
本日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
中小企業診断士 山本 哲也
もし、コーチングに少しでもご興味がおありでしたら・・・(ZOOM対応可能)
コーチング以外にも大阪や、堺市内を中心に、新規事業開発支援、経営戦略策定支援、SDGs運用支援、M&Aなど多様なテーマでご依頼頂いています。