最終更新日:2024/09/18
みなさんこんにちは!
大阪堺で「経営のモヤモヤをワクワクに変える!」をビジョンに、みなさまのちょっとした変化を応援しています。中小企業診断士の山本哲也です。
さて、前回の記事に引き続き、価格戦略について一緒に考えていきましょう。
前回の振り返り
まずは、前回の振り返りから・・・。
苦しい価格のままで事業運営を進めることのデメリットは以下の通り。
>「品質の低下」従業員が、無意識のうちに価格に見合う品質に調整してしまう。
>次に起こるのは、「従業員の退職」コロナ以降の転職は、完全な売り手市場です。転職でなくても独立という選択肢もあり、こちらのハードルもどんどん低くなっています。
今が、値上げのチャンスだと言える背景についてもお話しました。
>国が、人件費上昇のために必要な値上げ(インフレ)を目指しています。
大企業の一斉賃上げのニュースは、まだ、記憶に新しいところです。次に中小企業での賃上げを目標にしています。
>その施策として、中小企業の取引先になる大企業に「中小企業の値上げを支援してください!支援してくれない企業は・・・」
中小企業の値上げを支援しない大企業は、「価格転嫁に非協力的な企業」として企業名を公表されてしまいます。大手自動車メーカーの社長のお詫び会見をご覧になった方も多いのではないでしょうか。次回は、2024年11月頃だと想定しています。
価格転嫁の重要性やいま、チャンスだということはご理解いただけたのかなと思います。とは言え、「もし、取引停止になったら・・・」「でも、どうせ値切られるでしょ?」と考えてしまう、中小企業経営者や営業責任者も多いのではないでしょうか?そこで、今回は具体的な手順について一緒に考えていきたいと思います。
価格交渉の優先順を検討しましょう
優先的に価格交渉を行う順位は、次のようなことをポイントに考えましょう。
・利益率の低い商品、サービス
・取引額の小さい取引先
・取引額が小さくかつ、値引き幅の大きい取引先
価格交渉をお願いする取引先が数社に絞れたら、さらに、その中でも一番取り組みやすいところから進めてみましょう。
一番取り組みやすいところ?
ずばり、取引停止になっても困らない相手先を選ぶのです。
何故か?
初めての取り組みをするのに、いきなり本命の相手先から取り組むのはリスクが高すぎますよね。
まずは、万が一、取引停止になってもリスクの小さい相手から練習するのをおすすめします。
実際には、もう少し検討すべきテーマがあると思いますが、なにはともあれ、交渉をスタートすることが大切。
そして、価格交渉に多少なりとも自信がついたら、ブランド力の高い、いわゆる大手企業にチャレンジしてみましょう。私の所属していた大手企業では、購買担当者向けに「下請法の勉強会」などがあり、管理部門から無理な価格交渉に対する注意喚起がありました。
これまで、きちんと高い価値(品質、納期、情報提供や提案など)が提供できているのであれば、すんなりOKしてくれるのではないでしょうか?そうすれば、この先。「A社では、即OKでした」と使い回すこともできる前例となるでしょう。
こうして、優先順位の高いところから取り組みます。
もちろん、会社全体の損益への影響も加味しながら進めていきましょう。
どの商品・サービスを値上げするか?
次のお悩みは、「いくら値上げすれば良いのだろう?」ではないでしょうか?
ここでは、代表的な2つの考え方をお伝えします。
1:損益分岐点分析をする。
損益分岐点分析とは、一言で言うと、ある製品をどれだけ売れば、固定費を賄った上で、利益貢献に繋がるか?を明らかにする分析手法です。これは、製品単位にも使えるし、会社全体にも使える考え方です。
計算式は次の通り
損益分岐点売上げ=固定費÷(1 −変動費率)
例えば、原価率30%、その他の変動費10%(売上に応じてかかる費用、各QR決裁手数料など)のラーメン店があったとしましょう。
固定費は、社長の給料、アルバイト代や家賃などを入れて100万円だとすると・・・
この店が利益を出すために必要な売り上げは
100万円÷(1−40%) ⇒(40%=原価率30%+その他変動費10%)となり、答えは、100万円÷60% 約160万円になります。
もし、ラーメン1杯が1,000円なら、1ヵ月に1,600杯を売らなければ、赤字になり、赤字の文だけ店主の給料が減る計算です。
ぜひ、自社全体や赤字かもしれないと思う商品・サービス単位で計算してみてください
☆参考:変動費とは、商品・サービスが売れるごとに発生する費用のこと。
例えば、材料費、労務費、外注費や水道光熱費、QR決裁手数料などが考えられます。
固定費とは、商品・サービスが一つも売れなくても発生する費用です。
例えば、設備の減価償却費やリース料、家賃などに加えて経営者、営業、経理、人事、総務など製造にかかわらない人件費などが代表例です。
2:商品・サービスの貢献利益から検討する
貢献利益とは、商品・サービスの単価から原価+変動費を引いた残りの金額のことです。商品や店舗ごとに比較検討する場合に活用できる考え方です。
貢献利益が、赤字になっている商品・サービスがあれば、すぐに販売停止してください。なぜなら、先程の例で言うと、1,000円のラーメンを作るのに、1,000円以上のコストがかかっていると言うことになるからです。つまり、売れば売るほど、作れば作るほど赤字が膨らんでいくことになります。
「そんな馬鹿な」とお考えになったと思いますが、残念ながらよくある話なのです。
貢献利益が赤字ではないことが分かれば、
次に、店舗や設備などの固定費を各商品・サービスに割り振って計算してみましょう。固定費の割り振り方は、いろいろと考え方がありますが、まずは、売上比率に応じて割り振れば良いでしょう。
これを計算して、割り振った固定費をまかなえていないような商品・サービスがあれば、それは、値上げまたは、販売停止を検討すべき商品・サービスになります。
例えば、こんなことがありました。
同じ市内に複数店を展開しているB社は、コロナをきっかけに売上が下がりはじめ、コロナ終息後も赤字が続いていました。社長は、1番たくさんの売り上げがあるC店をとても大切にしていたのですが、私と一緒に、この方法で分析してみると、C店が一番大きな売上げを上げるとともに、一番大きな赤字を出していたことが分かりました。
妥当な価格とは?
では、商品・サービスの価格はいくらに設定すれば良いのでしょうか?
まず、1つの商品・サービスを提供するために、一体どれだけの原価や変動費が発生しているのか?
また、店舗や設備などの固定費がいくらかかっているのかを計算してみましょう。
原材料、加工賃、水道光熱費、外注加工費、車両費などの製造・販売に必要な変動費が明らかになったら、それを売上から差し引いたもの、それが貢献利益です。
この貢献利益が赤字であれば、どうなるでしょうか?
作れば作るだけ、売れば売るだけ赤字が大きくなってしまいます。
それは、早急に生産中止にすべき商品であり、価格を見直すべき商品と言えます。
一方で、貢献利益が黒字であっても、固定費をまかなえないようであれば、価格転嫁をして固定費をまかなって黒字になるような価格設定に変更するか、もっと数量をたくさん販売する。
などの手立てが必要になります。
このようにして、一体いくらで売れば良いのか?について検討します。
取引先との交渉の進め方
取引先との交渉でもっとも大切なことは、「なぜ価格を上げる必要があるのか?」とともに「今の価格が適正でない証拠」について情報提供することです。
これが、できなければ、国の援護射撃も得られないでしょう。では、その具体的な方法とは?
「前提条件を明らかにする」
具体的には、見積もりの根拠となる原材料、労務費、外注費などの変動費と設備費等の固定費の中身について明らかにします。
次に、それぞれの費用について、実際に発生している金額を明らかにします。
加えて、見積もり当時の金額を比較すれば、自社がどれだけの企業努力をしてきたか?が明らかにできるでしょう。
さらに言えば、今後の相場動向がどのように推移するか?についての予測データと照合させることできれば、見積もり価格はどうあるべきかを示すこともできるはずです。
例えば、「この労働局が出している資料の通り、大阪の職別賃金データを見ると、見積もり時と比較して10%上がっているので、労務費を10%アップさせてください。」
この交渉方法であれば、決して自社が儲けたいから値段を上げたいのではなく、「原材料費、人件費、運送費用などが上がったため、料金がこう変わる」と言う説明がしやすく、交渉に当たる営業さんの心理的負担も小さいのではないでしょうか?
あくまで、「上げさせてほしい」ではなく「このように変化します」と思い切って伝えましょう。
この交渉をすんなりまとめるには、取引先担当者の立場に立つことも重要になります。
「取引先担当者の立場に立つ」
具体的には、購買担当者は「どの部品を、どこの会社から、いくらで、いくつ買うのか?」を独断で決めているのではありません。公式的な会議や上司との協議で決定しているのです。
つまり、取引先購買担当者が、社内会議で説明をしやすい資料を作成することが重要です。
例えば、各費用の根拠は、できるだけ正式な、広く公表されているデータを使います。
手っ取り早いのは、国や業界団体が発表している数値、新聞などに載っている商品先物相場になります。
もし、欲しいデータが見つからなければ、他の指標を参考に使ったり、お近くの商工会や商工会議所に相談してみましょう。
中長期的な取り組み
ここまでは、短期的な交渉方法についてお話してきましたが、この先、どの費用も中長期的に上昇することが見通されています。なぜなら、緩やかなインフレは、資本主義社会の前提条件であり、国がインフレ目標を設定しているからです。
「この先、何回も値上げ交渉をやらないといけないのか・・・」とめげてはいませんか?ストレスで営業さんが転職してしまいそうです。
そのストレス軽減のためにもお勧めしたいのが・・・
「主要な変動費用を自動的に商品価格に反映する」見積もり方法です。
具体的には、最低賃金の上昇率に併せて労務費を変化させたり、ガスなどの燃料の推移に合わせて燃料費を変化させたりする方法です。
御社の見積書はどんな形式になっているでしょう?
「●●一式」や
単なる「単価×数量」といったどんぶり勘定となっているのではないでしょうか?
それでは、今後も値上げ交渉が必要となったときに、今回と同様に変動費と固定費を算出して、交渉に臨む必要があります。私たちがおすすめする提案は、一言でいうとこんな感じ・・・。
「この先も、各費用の継続的な上昇が見越されますよね?
毎回、社内で検討いただくのも大変でしょう。ついては、この変動費の部分については、〇〇と言う指標に基づいて毎月1回(または、3~6か月に1回)単価に反映させることを契約書に含めておくというのは、どうでしょう?」という感じで、変動が著しい、変動費について、相場と連動して変化させるようにあらかじめ、見積書や契約書に歌っておくのです。もちろん、これまで通り受注前の見積もりは提出してください。
例えば、年1回の最低賃金の変化率に併せて、労務費を見直したり、原油先物価格のに併せて3か月に一度、燃料費を上下動させるのです。
燃料費などは、相場に連動させれば、上がるだけでなく、下がったときも単価に反映させやすくなり、より透明性の高い取引になるため、取引先にも交渉がしやすいのではないでしょうか?
このように変動費の上下動に併せて、見積もり単価を連動させて、上下動させることを、取引条件として取引先に承認してもらうのです。
これによって、今後は頻繁に交渉しなくても、「来月の〇〇の指標を見ると1%上がっているので、見積もり価格は〇〇円になります」と、予告するだけで済みますよね。指標が下落すれば、それに応じて見積もりも値下げすることを忘れないでください。これがきちんとできれば、明朗会計が実現できます。
購買担当者の本音
最後に、交渉相手である、購買担当者についても考えてみましょう。
実は、購買担当者は、我々が考えているほど価格にシビアではないことも多いものです。仕事柄、購買担当者とお話することも多いですし、前職では、中小企業に仕事を発注する立場だったことからも実感しています。
では、購買担当者が価格をそれほど重視していないとしたら、いったい何を重視しているんだろう?となりますよね。
購買担当者が重視すべきポイントには大きく5つのテーマがあり、その中でも「低コスト仕入れ」は1番重要度の低い5番目のテーマなのです。
一番重要度が低いの?
では、もっとも重視していることはなんでしょうか?
それは、本文でもお話しましたが、「安定供給(納期・品質)」なのです。
日本国内では、バブル景気崩壊後、長く景気が低迷してきたため、低コスト神話が根付いていますが、実は、一部では、コスト以外の価値の見直しが進んでいます。
一般の消費行動も二極化していると言われて久しいですよね?
勇気を出して、価格交渉に臨みましょう。
本来やるべき値上げを早く!
本来の値上げとは、付加価値をアップさせ、それを価格に反映させ、価格を上昇させることです。
私たちが本来、頑張るべきテーマは、こちらです。
具体的には、商品のリニューアルや新商品発売、新規取引、ロットや納期の変更などが絶好のタイミングです。
このタイミングで、自社が提供している付加価値に見合った価格設定に近づけましょう。
このテーマについては、また、次の機会に一緒に考えたいと思います。
まとめ
冒頭でお伝えした通り、価格交渉は取引先への安定供給のために不可避の作業であす。決して、我々の儲けを増やそうと言う取り組みではありません。
これをしっかり購買担当者に伝えることがポイントです。
また、国の要請内容や公的機関への相談など、使えるものはなんでも使いましょう。
もし、まだ、心配ごとがあるようでしたら、お気軽にご相談ください。
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中小企業診断士
山本 哲也