みなさんこんにちは!
大阪・堺で「経営のモヤモヤをワクワクに変える!」をビジョンに、みなさまのちょっとした変化を応援しています。中小企業診断士の山本哲也です。
先日、ビルメンテナンス業界の方と意見交換をする機会をいただきました。
相変わらずの人手不足でその対応に奔走しているとのこと。また、人件費の上昇分のサービス料金への転嫁にも苦労しており、業績の悪化が避けられないとのことでした。
人手不足は深刻さを増す一方
清掃業界の人手不足は、今に始まったことではありません。かつては、他業界よりも多めに給与を支払うことでなんとかやりくりができていましたが、現在は、最低賃金が毎年大きく上昇し、それに合わせた昇給をするだけでも精一杯。
他業界よりも多めに支払って差別化するのは難しい状況です。
今後は、清掃会社をはじめとするサービス業の業界において「人手不足倒産」が大量発生する可能性が高まっていると感じます。
また、従業員の高齢化も進んでおり、これまでと同じ人数を揃えたとしても、同じサービスを提供することが困難になっています。
この問題を避けるべく、従業員に今まで以上の作業量を求めすぎることは、高齢の労働者にとっては肉体的な負担が大きく、離職率が上昇する傾向にあります。
このような背景から、現在の清掃業界は、「いかに限られた人材で効率よく業務を進め、顧客満足度を維持するか」という課題の解決を迫られています。
採用活動に工夫する話は、また別の機会にするとして、今回は、業務の効率を中心に一緒に考えたいと思います。
業務の効率化といっても、とおり一辺倒のお話ではなく「不要なことは、しっかり手抜きをし、業務の優先度を判断し、重要度に応じたリソース配分をしましょう」
当たり前ですが、顧客と同意の上でです。

効率化の重要性: 企業に与える3つのメリット
我々企業側にメリットがあることは言うまでもありません。
特に、清掃業界における「効率化」は、今後の業界全体の生き残りを左右する非常に重要なテーマです。なぜなら、限られた労働力で高品質なサービスを提供するためには、必要な効率を追求しなければ、コスト増加どころか、実は、品質の低下にもつながってしまうからです。
まずは、効率化が清掃会社に与える具体的なメリットについて説明します。
・コスト削減
まず、最も分かりやすい効率化によるメリットはコスト削減ですよね。
清掃業務は、従業員の人件費が大きな割合を占めるため、効率化により作業時間を短縮できれば、同時にコスト削減にも繋がります。
例えば、従業員一人あたりの作業時間を短縮することで、必要な人員数を抑えることができるため、人件費の圧縮が可能となります。また、業務プロセスを見直し、無駄な作業や待機時間を削減することで、全体的な運営コストを抑えることができるのです。
・顧客満足度の向上
次に、顧客満足度の向上も効率化による大きなメリットです。
効率的な業務運営が実現すれば、顧客に対して迅速かつ高品質なサービスを提供することが可能になります。
例えば、短時間で効率的に清掃が行えるようになれば、同じクオリティのサービスをより短期間で提供できるため、顧客の期待に一層応えやすくなります。そのためにも技術者がやること、一般の作業者がやること、ロボットがやること、マネジメントがやること、そもそも何もしないこと。など細かなセグメントを切り分ける必要があるのです。
・競争力の強化
さらに、競争力の強化も重要なポイントです。
効率化に成功した企業は、同業他社よりも高品質かつ適正コストでサービスを提供できるため、価格競争においても有利な立場を築くことができます。特に、合理的で柔軟な思考をお持ちの顧客層に対しては、効率化を進めることで競争力を高めることができ、他社との違いを明確に提示することが新たな顧客獲得チャンスを得ることができます。
また、業務効率が向上すれば、サービスの質を高めつつ、さらに多くの顧客に対応できる柔軟性も生まれ、営業活動に時間を費やすこともできそうです。
効率化は単なるコスト削減の手段ではなく、顧客満足度や競争力の強化、そして企業全体の成長を促進するための重要な施策であることが明らかです。
次に、肝心なこの効率化を実現するための具体的な施策について詳しく解説していきます。

具体的な3つの効率化施策
清掃業界において効率化を実現するためには、様々なアプローチがあります。
これから紹介する施策は、すでに実行しているものも多いかもしれませんが、徹底できているかどうかの視点で改めて確認していきましょう。
それぞれの施策は、コスト削減や作業時間の短縮だけでなく、清掃品質の向上にも寄与するため、企業の競争力を高めるために欠かせないものとなっています。
・1- テクノロジーの活用
近年の清掃業界では、テクノロジーの導入が効率化の鍵を握っています。
例えば、床洗浄機をはじめとする設備投資です。また、最近は、自動化技術を取り入れたロボット掃除機の導入も増加しているようです。これらのロボットは、従来、人が行っていた掃除を自動で行うため、作業時間の大幅な短縮が期待できます。人手不足が深刻な現状において、このような自動化技術の導入は、清掃業務を効率的に行うための強力な助けとなります。
また、IoT技術を活用して清掃作業の状況をリアルタイムで把握することも効果的です。センサーを設置して、清掃が必要な場所や清掃の頻度をデータとして収集し、効率的な清掃計画を立てることができます。これにより、必要以上に清掃を行う無駄を省き、最適なタイミングで効率的に作業を進めることが可能となります。
これまで、収益性が低く、顧客との契約の継続性も不透明などの面から設備投資に対してシビアな清掃会社が多かったかもしれませんが、他社に先んじて投資を行うことで差別化ができる時代が到来したともいえるでしょう。
・2- 作業手順の改善
清掃作業そのものを見直すことで、効率を劇的に向上させることができます。
例えば、現場ごとの作業プロセスを細かく分析し、無駄な移動や作業の重複を削減することが重要です。現場ではしばしば、従業員が同じ場所を何度も往復したり、無駄な動線で時間を浪費しているケースがあります。これらの無駄を減らすために、効率的な動線設計や、各従業員に対する具体的なタスク分担の見直しを行うといった作業手順の改善が効果的です。
また、作業時間を短縮するために、ツールや機器の適切な配置や管理も重要です。必要な道具がすぐに手に取れるように整理整頓された環境を整えることで、従業員が効率的に作業を行えるようになります。これらの改善は、特に日々の作業の積み重ねによって大きな効果を生むため、重要な効率化施策と言えるでしょう。
さらに、無駄な作業の改善には、顧客の協力が重要なキーワードになります。私自身の過去の経験談で恐縮ですが、顧客は(特に発注担当者)は、我々が思っている我々の業務に関心がありません。
例えば、「なぜ、こんな無駄なことをしているのか?」と現場マネージャーに尋ねるとこういう答えが一般的ではないでしょうか?
「前任者からの引継ぎのままやっているから、わからない」「以前、発注担当者さんから指示を受けたから」などなど。
つまり、改善のための提案がまったく放棄されているのです。作業方法、作業手順、作業時間帯など、より、顧客にとっても我々および我々のスタッフにとっても良くなることを常に考え、提案し続けるというマネージャーの大切な仕事が実行されていないのです。極論すると経営者意識が欠如していると言われても仕方がない状況ですね。
では、どうすれば、さらなる効率化やそのために必要な提案ができるようになるのでしょうか?
・3- 人材育成も最重要
さらなる効率化やそのために必要な提案には、人材育成が欠かせません。
現場スタッフについては、ここで触れるまでもありませんが、スキルアップを図ることができれば、同じ作業をより短時間で、かつ高品質に行うことが可能となります。こちらについては、どこの清掃会社もある程度は実施できているのではないでしょうか?一方でマネージャー教育はどうでしょうか?顧客からのクレームがない、現場スタッフからのクレームがない、数値予算通りに達成しているなど、必要最低限の項目だけでマネージャーを評価してはいないでしょうか?
先に述べた設備投資や作業手順やスケジュールの改善を行うのは、マネージャーの仕事です。つまり、現場マネージャーのスキルが高まらなければ、なにも始まらず、これまで通りの苦しい経営状況から脱却できることはないでしょう。
では、具体的にどのようなスキルが必要になるのでしょうか?

「現場マネジャーに必須のスキル」 その1
・1- できばえ重視の清掃
できばえで評価や施設オーナーと契約をする清掃については、ずいぶん昔から叫ばれているにもかかわらず、いまだに重要な取り組みテーマとしてあがっています。
つまり、解決されていない課題なのです。
できばえで評価する清掃とは、施設全体の衛生品質を定量的に評価し、その達成を契約の根拠とする清掃方法です。
ちょっと私の説明が下手過ぎてわかりにくいかもしれませんね。
では、従来型の契約方法を説明した方が分かりやすいかもしれません。
従来型の契約とは何か?
それは、「どの清掃エリアをいつ、どのような清掃方法で実施するか?」を契約の根拠とする方法です。
つまり、「あるエリアにおいて、品質基準をクリアしているのならば、そのエリアを作業をする必要がない」一方で、「あるエリアにおいて品質基準を満たしていないようであれば、何度でも、何時間でもそのエリアの作業をする必要がある」ということです。
他の業界の方からすると、当たり前のように聞こえるかもしれませんが、ビルメン業界では、驚くなかれ、この作業量を担保する契約で長年やってきました。要するに、美容院で言うと「気に入ったヘアスタイルにならなくても、ハサミを100回動かしたから、今日は終了。」みたいな感じですね。
電車で言うと、「特急で何時間かかろうとも特急料金は返金しません」みたいな感じでしょうか?どうしてなんでしょう?
これは、私の経験からの推測ですが・・・
これまでは、現場スタッフが臨機応変に対応することでなんとか衛生度が保たれていたのでしょう。
具体的には、契約内容だけでは、キレイを維持できないと思えば、スタッフが残業したり、作業ノルマのない管理者が作業をするなりしてその部分を対応してきました。
そして、まれにいるモチベーションの低いスタッフやマネージャーが問題を大きくしてきたのでしょう。
顧客からのクレームに対して「私たちは契約通りに履行している。問題があるとすれば、顧客とビルメンサイドの営業担当が取り決めた清掃仕様に問題があるのだ」と対抗したりするところを見たことがあります。
さらに言えば、施設側担当者の努力不足、理解力不足も大きな障壁になっていると考えています。
できばえ重視の清掃方法への切り替え方については、そこそこのボリュームがありますので、いずれ別の機会にお話いたしますね。
「現場マネジャーに必須のスキル」 その2
・2- 顧客に対する継続的な報告連絡相談
しっかりとした提案方法でなければ、清掃仕様や契約内容の変更は、顧客担当者の立場からすると「時間の無駄」としか捉えられません。これは、みなさん共通認識だと思います。
では、「しっかりとした提案」とはどのようなものなのでしょう?
キーワードは
「こまめに行うこと」
「事実を根拠とすること」
「発注担当者のメリットになること」です。
具体的には、年に1回の契約更新のタイミングで突然「来年度からは、AではなくBにしましょう。つきまして、費用は・・・」と提案して快諾されるとお考えの方はいないと思います。
では、毎月(つまり年12回)、少しずつ提案されたらどうでしょう?
徐々にその提案内容に慣れてくるとは思いませんか?
そのためにも「事実と担当者のメリット」の視点が重要になります。
「先月、Aのエリアでは、〇〇が10回発生しましたので、こちらで柔軟に対応しておきました。」や「先月、ご担当者からの依頼でB作業を平常月の3倍対応しました。」
「これらは、来年度、見直しが必要な箇所の一つですね。
作業が増える分は、どこかを削れないか、こちらでも検討しますが、施設側でも検討お願いします」と毎月、淡々と提案するだけです。
そして、来年度の契約更新打ち合わせでは、毎月の資料を束ねて、サマリーを作成して提案書として提出するだけです。すぐに値上げとはできなくても、作業量の減少などなんらかの交渉はできそうだと感じていただけると思います。
「毎月の定例会議なんて・・・」と躊躇する気持ちはわかります。
しかし、それをさぼったがために、また、来年も1年苦労することになるのです。そして、何十年も同じことを繰り返すのでしょうか?
次に、施設側の発注担当者の立場に立ってみましょう。
彼らにも上司がいます。
上司は彼らに問いかけます。「最近どうだい?」私たちが、何もホウレンソウをしていなければ、彼らは「特に問題ありませんね」と言って、さらなる質問がないことを祈るしかできないでしょう?
一方で、私たちが小さなことでもホウレンソウを資料にして提出していればどうでしょう?「先月は、〇〇時間、延べ〇〇人が稼働、消耗品の使用数は・・・落し物が〇〇件で、最も多かったのは・・・」と上司に答えることができるでしょう。
では、何から手を着ければ良いのでしょう?
まずは、私たち側が必要と考えるデータをホウレンソウすれば良いでしょう。
そして、「他にも報告が必要な情報があれば、ご指示ください。可能な限りご協力いたします」と伝えれば良いでしょう。
いずれは、この資料作成の作業料金を請求することが可能になるはずです。

まとめ
清掃業界においては、効率化はもはや選択肢ではなく、企業が生き残り、成長していくための必須の戦略となっています。あらゆる業界が参考にできることが凝縮されているとも言えます。
人手不足やコスト増加といった課題が年々深刻化する中で、業務の効率化を進め、付加価値を高めることが、経営者や管理職にとって避けて通れない現実となっているのです。
効率化の施策は多岐にわたりますが、最も重要なポイントは、二つです。
・作業量を約束する清掃契約から「できばえを基準」にした契約への見直し。
・マネージャーによる定期的なホウレンソウと、それを実行できるようなマネージャの育成。
それぞれの具体策については、今後、少しずつお話していきたいと考えています。
本日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
もし、心配ごとがあるようでしたら、お気軽にご相談ください。
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中小企業診断士
山本 哲也