最終更新日:2024/11/27
―ビルメンテナンスの新しい清掃管理手法について考えるー
みなさんこんにちは!
大阪・堺で「経営のモヤモヤをワクワクに変える!」をビジョンに、みなさまのちょっとした変化を応援しています。中小企業診断士の山本哲也です。
今回は、ビルメンテナンス業界が、サステナブル経営に取り組むために必要な“性能発注方式”について一緒に考えたいと思います。
性能発注方式とは、以前のコラムで「出来栄え重視型清掃」と呼んでいた考え方を契約方式にした名称です。ここでの「性能」は「出来栄え」や「清掃品質」と同じ意味としてご理解ください。
コロナ禍が突きつけた、まったなしの変化
ビルメンテナンス業界の人手不足は、コロナ以前から深刻な状況にありましたが、コロナを経て一層厳しくなっています。
若年層のスタッフの採用は、どんどん難しさを増しています。そのため、これまで以上にベテランスタッフに頼らざるを得ません。このダブルパンチが、現場の超高齢化を招いています。ベテランスタッフにも扱いやすい清掃機器やロボットの活用が進んでいますが、すべてをロボット化するには、まだ、長い時間がかかりそうです。
そんな課題に取り組み始めたタイミングでコロナ禍が訪れ、世界中で衛生意識が急激に高まりました。そもそも、衛生環境を管理してきた私たちのお仕事が注目されるのは、うれしいことではありましたが、一方で、施設オーナーや利用者の要求はやや過剰なもので、とても戸惑いました。
コロナ禍は、いったん落ち着いたようでがありますが、慢性的な人手不足環境における清掃品質管理をどのように取り組むかは、今後も大きな課題になっています。
そこで、再び注目を浴びているのが、従来の「工数ベース」から「性能発注方式」への移行です。
この「性能発注方式」とは、清掃の頻度や時間ではなく、清掃の成果や出来栄えを基準に評価する手法であり、限られた人員で質の高い清掃を実現する方法として注目されています。
性能発注方式のメリット
この性能発注方式では、特定のエリアに求められる清潔度や衛生基準を計画し、清掃がその基準を満たしているかどうかを評価します。性能発注方式の特徴は、清掃品質を「見える化」する点にあります。具体的な基準を設定し、成果を数値で管理することで、清掃品質のばらつきを明らかになり、関係者全員で常に高い衛生品質を維持に取り組むことできます。
・施設オーナーの視点
清掃品質が安定することは、施設全体の価値向上につながります。
特に商業施設やオフィスビルなどでは、利用者に対する清潔な印象が重要であり、清掃基準がしっかりしていることで、オーナーや利用者からの信頼が高まります。さらに、清掃品質が見える化されていることで、施設オーナーにも清掃の成果をわかりやすく伝えられるため、満足度向上にも貢献します。
・現場マネジャー・スタッフの視点
性能発注方式は、現場スタッフにとってもメリットがあります。
達成すべき基準が明確になり、作業頻度や方法などに一定の裁量を持つことができます。これにより、スタッフの達成感や、やりがいが向上します。また、品質改善活動に全員が参加することで、チームワークの強化も期待できます。
・ビルメンテナンス企業の視点
性能発注方式は、清掃の無駄を減らし、業務の効率化を促します。
従来の作業量ベースの契約に比べ、必要なエリアに作業を集中させられるため、人件費の抑制につながります。さらに、清掃品質が安定することで、クレーム対応や再清掃の頻度が減り、長期的なコスト削減効果も期待できます。
このようにメリットだらけの性能発注方式ですが、導入のポイントや手順についてもう少し詳しく見ていきましょう。
性能発注方式のキモ、”SLA”と”KPI”
性能発注方式で清掃品質を「見える化」するためには、”SLA”と”KPI”という指標が欠かせません。
・SLA(Service Level Agreement)は「サービス品質保証」とも訳され、清掃品質を保つための基準値を設定する指標です。
例えば「トイレの消臭効果を保つ」「床の光沢を維持する」といった目標設定となります。
KPI(Key Performance Indicator)は「重要業績評価指標」であり、清掃基準を評価するための具体的な数値です。
達成度を「消臭率」「光沢度」といった具体的な数値で管理します。
この2つを活用することで、客観的な清掃評価が可能となり、品質のばらつきや管理不足を防ぐことができます。また、どのエリアがどの程度の清掃が必要かが視覚化され、管理者とスタッフ間で共通理解を持つことが可能になります。SLA/KPIを基準とすることで、清掃品質の「見える化」が進み、企業としても顧客に対して、清掃の成果を明確に報告できるようになります。
性能発注方式の導入ステップ
性能発注方式の導入にはいくつかのステップがあり、それぞれにポイントがあります。ここでは、ビルメンテナンス企業が性能発注方式を効果的に導入するための4つのステップを解説します。
・ステップ1:SLAによる目標設定
まず、SLAを通じて、施設オーナーと協議の上、清掃目標を設定します。
目標設定では、清掃する各エリアごとに求められる清潔度や衛生基準を具体的に定義します。
たとえば、施設エントランスでは「常に床にホコリがない状態」を目標とし、トイレなら「悪臭がしない、ペーパーやソープなど備品の欠品がないこと」といった具合に、出来栄え100点の状態を具体的に設定します。
ステップ2:KPIによる評価指標の設定
SLAで設定した目標を数値で評価できるよう、KPIを定めます。たとえば、床の清潔度を「光沢度」で測ったり、トイレの消臭効果を「臭気レベル」で確認するなど、清掃の成果が明確に数値化できる指標を設定します。
前職時代に医療施設に特化した開発プロジェクトを担当した経験があるのですが、そのプロジェクトでは、利用者が触れるドアノブなどのハイタッチポイントに付着したATPを測定し、環境の清浄度の数値化に取り組みました。
当時は、医療施設から注目を浴びる先進的な取り組みでした。
※ATPとは、Adenosine Triphosphate(アデノシン三リン酸)
ATPは、すべての生物の細胞内でエネルギーを供給する分子であり、細菌や真菌、カビなど、微生物の活動がある場所に存在します。
我々が開発したのではなく、当時すでに食品衛生管理の現場で活用されていたものを清掃現場に持ち込めないかを検証したのです。これによって、目に見えない微生物による汚染の見える化に成功しました。このプロジェクトでは、衛生品質をさらに向上させるため、使い捨てクロスを利用することを検証していました。
☆もし、ご興味がおありでしたら、詳しくご説明いたしますので、個別にご連絡ください。
ステップ3:スタッフ教育と基準の共有
清掃品質基準を実現するため、スタッフ教育は欠かせません。
全スタッフがSLAやKPIを理解し、基準に沿った清掃結果を提供できるよう、基準設定の意図や評価指標を共有します。スタッフが基準を意識して清掃に取り組むことで、清掃品質のばらつきを減らし、安定した出来栄えを提供できるようになります。
具体的には、再汚染防止のための手袋着用やクロスの使い方など、多岐にわたる見直しが行われ、スタッフの意識や作業方法の改善が進みました
ステップ4:定期的な検査と改善
清掃品質が目標に達しているか、定期的な品質検査を行い、改善が必要な箇所があれば指導や再作業を行います。KPIを基にした検査であれば、どの部分が品質に達しているかをデータで判断できるため、効率的で合理的な改善が可能です。定期的な評価と改善を繰り返すことで、清掃品質の維持ができ、オーナーや利用者の満足度も向上します。
性能発注方式を導入する上での注意点
性能発注方式を導入するにあたり、いくつかの注意点があります。特に清掃基準の設定や、定期的な改善がポイントになります。
・基準設定の正確さ
KPIの設定は、現場の実態を反映し、達成可能なものにする必要があります。無理な目標設定はスタッフに負担をかけ、モチベーションを低下させる原因にもなります。目標は高くても、実現可能で現場の実態に合わせた指標設定が重要です。
・定期的な見直しと改善
清掃品質の維持と向上のためには、KPIの進捗を定期的に確認し、必要に応じて基準を見直します。利用者や施設の変化に応じて基準を調整することで、継続的に高い清掃品質を保つことができます。
・オーナーとのコミュニケーション
清掃品質が実際に目標を達成しているか、施設オーナーとコミュニケーションをとりながら進めることが大切です。オーナーの満足度を確認し、要望に応じて柔軟に清掃内容を調整することで、良好な関係を保ちながら清掃の質を維持できます。
まとめ
性能発注方式は、清掃業務を効率化し、質の高いサービスを提供するための画期的な方法です。清掃の「見える化」と数値管理は、品質を高く維持し、施設オーナーや利用者からの信頼が得られるだけでなく、スタッフのモチベーション向上や効率化にも直結します。
今後の清掃業務を質の高い「成果」基準に進化させることができれば、ビルメンテナンス業界での競争力は格段に向上するでしょう。
貴社でも性能発注方式の導入を検討し、より高い品質のサービスを提供してみてはいかがでしょうか。
本日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
もし、心配ごとがあるようでしたら、お気軽にご相談ください。
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中小企業診断士
山本 哲也