📌 この記事でわかる3つのこと
✅ 性能発注方式とは何か、仕様発注方式との違い
✅ SLA/KPI設計と4ステップの導入法
✅ 10年前、私が医療施設に「ATP測定」を導入した10か月間の実体験
みなさん、こんにちは!
大阪・堺で「経営のモヤモヤをワクワクに変える!」をビジョンに、みなさまのちょっとした変化を応援しています。中小企業診断士の山本哲也です。
「清掃品質のばらつきが減らせない…」
「作業時間ベースの契約では、もう限界だ…」
「価格交渉の根拠がなく、値上げ提案ができない…」
ビルメンテナンス業界の経営者・管理職の方から、よくお聞きするモヤモヤです。
この3つのモヤモヤを、実は1つの手法で解決できるのをご存知でしょうか?それが、今日ご紹介する「性能発注方式」です。
実は私自身、前職時代の約10年前、医療施設10か所以上に「ATP測定」を活用した性能発注型サービスを導入するという10か月間の新規事業開発プロジェクトを担当した経験があります。
その中で気づいたのは、性能発注方式は単なる契約方式ではなく、「事業の付加価値を可視化する経営ツール」だということ。
この記事では、性能発注方式の基本から実践的な導入法、そして私自身がプロジェクトで体験した”リアルな成功と失敗”まで、余すことなくお伝えします。
✍ この記事を書いた人
山本 哲也(やまもと てつや)
中小企業診断士/ICF認定コーチ/合同会社カツヤ書房 代表
中小企業庁 認定経営革新等支援機関/大阪府よろず支援拠点 生産性向上支援センター 専門家
大阪・堺を拠点に、中小企業の新規事業開発・価格転嫁・人材育成・M&A・資金調達を伴走支援。前職時代、ビルメンテナンス業界で医療施設向け新サービス開発プロジェクトを担当し、ATP測定を用いた清掃品質の可視化を実現。
性能発注方式とは?仕様発注方式との違いから解説
性能発注方式とは、清掃の頻度や時間ではなく、「清掃の成果や出来栄え」を基準に評価する契約方式のことです。
例えば「トイレの臭気レベルを常に○○以下に保つ」「エントランスの床に常にホコリがない状態を維持する」といった、達成すべき”性能”を発注者と受注者で合意し、その達成状況を数値で管理する方式です。
仕様発注方式との根本的な違い
従来のビルメンテナンス業界では、「仕様発注方式」が長らく主流でした。これは「どのエリアを、いつ、どのような方法で、何分間清掃するか」という“作業量”を契約の根拠とする方式です。
仕様発注方式 vs 性能発注方式
仕様発注方式:「1階トイレを毎日○時に○分間清掃する」といった作業量を約束する契約
性能発注方式:「1階トイレの臭気レベルを常に○○以下に保つ」といった成果(性能)を約束する契約
分かりやすく例えるなら、美容院で言えば「気に入ったヘアスタイルにならなくても、ハサミを100回動かしたから今日は終了」というのが仕様発注方式、「あなたが満足するヘアスタイルになるまで対応します」というのが性能発注方式です。
なぜ「性能発注」と呼ばれるのか
「性能」という言葉は、ここでは「出来栄え」「清掃品質」と同じ意味で使われています。過去のコラムでは「出来栄え重視型清掃」と呼んでいた考え方を、契約方式として整理した名称が「性能発注方式」だとご理解ください。
📖 前段の理解を深めたい方はこちら:「量」から「バエ」へ:清掃業界の人手不足問題

なぜ今、性能発注方式が注目されているのか?
性能発注方式は、実は10年以上もっと前から存在する考え方です。それが今、改めて注目されている背景には、ビルメンテナンス業界の構造的変化があります。
コロナ禍が突きつけた”まったなしの変化”
コロナ禍で、世界中の衛生意識が急激に高まりました。衛生環境を管理してきたビルメンテナンス業界のお仕事が注目される一方で、施設オーナーや利用者の要求はやや過剰なものになりました。
「作業を頑張っています」というアピールだけでは通用しなくなり、「実際にどれくらい清潔なのか、数値で示してほしい」という声が急増したのです。
人手不足×高齢化のダブルパンチ
若年層のスタッフ採用は年々難しくなり、ベテランスタッフに頼らざるを得ない状況です。しかし、ベテランスタッフの高齢化も進んでおり、これまでと同じ人数を揃えても、同じサービス品質を提供することが困難になっています。
💡 診断士としての視点
仕様発注方式の限界は、「作業時間で品質を担保する」という前提そのものが崩れつつある点にあります。人手不足で作業時間を確保できないなら、「限られた時間で、いかに高い品質を出すか」にシフトするしかない。それを実現するのが、性能発注方式です。
つまり、性能発注方式は”新しい流行”ではなく、構造変化に対応するための必然的な選択肢として、再び脚光を浴びているのです。
性能発注方式の3つのメリット
性能発注方式は、清掃品質を「見える化」する点に最大の特徴があります。この見える化が、実は3つの立場すべてにメリットをもたらします。
メリット①:施設オーナーの視点
清掃品質が数値で示されることで、施設全体の価値向上につながります。特に商業施設やオフィスビルでは、利用者に対する清潔な印象が重要であり、清掃基準がしっかりしていることで、オーナーや利用者からの信頼が高まります。
また、清掃の成果が「数値」でわかりやすく報告されるため、オーナー自身が上司や取締役会に説明する際の武器にもなります。
メリット②:現場マネジャー・スタッフの視点
性能発注方式は、現場スタッフにも大きなメリットがあります。達成すべき基準が明確になり、作業頻度や方法などに一定の裁量を持つことができます。
💡 実は最大のメリットは”自己肯定感”
私自身の経験ですが、性能発注方式で最も予想外だった効果は、現場スタッフの自己肯定感アップでした。「自分たちの仕事が、こういう数値で施設オーナーに評価されている」と初めて実感できたことで、現場の表情が明らかに変わったのです。詳しくは、セクション6の実体験でお話しします。
メリット③:ビルメンテナンス企業の視点
性能発注方式は、清掃の無駄を減らし、業務の効率化を促します。必要なエリアに作業を集中させられるため、人件費の抑制にもつながります。
さらに、清掃品質が安定することで、クレーム対応や再清掃の頻度が減り、長期的なコスト削減効果も期待できます。何より、「価値を見える化した」というのは、価格交渉の強力な根拠になります。
性能発注方式の”キモ”はSLAとKPI
性能発注方式で清掃品質を「見える化」するためには、SLAとKPIという2つの指標が欠かせません。
SLA(Service Level Agreement)とは
SLAは「サービス品質保証」とも訳され、清掃品質を保つための基準値を設定する指標です。
SLAの具体例
・トイレの消臭効果を保つ
・エントランスの床の光沢を維持する
・ハイタッチポイント(ドアノブ等)の衛生度を保つ
KPI(Key Performance Indicator)とは
KPIは「重要業績評価指標」、SLAで設定した基準を評価するための具体的な数値です。
KPIの具体例
・消臭率(○○%以上)
・光沢度(○○以上)
・ATP値(○○RLU以下)
この2つを活用することで、客観的な清掃評価が可能となり、品質のばらつきや管理不足を防ぐことができます。管理者とスタッフ、そして顧客との共通言語が生まれるのです。

【現場実例】医療施設に「ATP測定」を導入した10か月の挑戦
ここからは、私自身が約10年前、前職時代に担当した新規事業開発プロジェクトの実体験をお話しします。この経験こそが、私が「性能発注方式は経営ツールだ」と確信するに至った原点です。
きっかけは事業部長からの一言
プロジェクトは、事業部長からの新サービス開発の使命から始まりました。条件は3つ:
事業部長からの3つの条件
✅ 付加価値が高いサービスであること
✅ 導入しやすいサービスであること
✅ マーケティングしやすいサービスであること
当時、小規模施設向けの清掃サービスは、「面倒だから」「スタッフがいないから」という理由で外注される、労働集約的で生産性の低い仕事でした。この状況を根本から変えたい。それが、事業部長の想いでした。
挑戦したのは「4つの目標の同時達成」
この使命を受けて、私たちは4つのゴールを同時に達成する新サービスを設計しました。
新サービス開発の4つのゴール
🎯 付加価値の向上:単なる作業代替からの脱却
🎯 価値の可視化:ATP測定による衛生の見える化
🎯 値上げ提案:可視化を根拠にした適正価格化
🎯 新規顧客獲得:医療施設という新カテゴリーの開拓
対象は日常的なビル清掃サービスの、医療施設向けブラッシュアップ版。当時すでに食品衛生管理の現場で活用されていたATP測定を、清掃現場に持ち込むことで、目に見えない微生物汚染の見える化を実現しようとしたのです。
💡 ATPとは
ATP(Adenosine Triphosphate=アデノシン三リン酸)は、すべての生物の細胞内でエネルギーを供給する分子。細菌・真菌・カビなど、微生物の活動がある場所に必ず存在します。ATP値を測定することで、目に見えない汚染度合いを数値化できるのです。
10か月間、10施設以上での実証プロジェクト
プロジェクトは10か月間、10施設以上の医療施設で実施しました。チームは、技術・広告・営業・現場など社内各部門からの寄せ集めと、外部コンサルタントを加えた数名規模。
今振り返ると、このメンバー構成が成功の鍵だったと感じます。一部門だけでは絶対に生まれなかった発想が、部門横断チームからは次々と出てきました。
想定外だった、最大の壁
プロジェクトを進める中で、いくつかの壁にぶつかりました。
プロジェクトで直面した3つの壁
⚠️ 壁①:機器の導入コスト
ATP測定器の導入は初期投資が大きい
⚠️ 壁②:数値を上げるための開発コスト
ATP値を下げる清掃技術・清掃資材の開発が必要
🔥 壁③:営業員の思考転換(最難関)
「作業を代替する」から「衛生的な空間・ウイルスコントロールを提供する」へのリフレーミングができる営業員の育成
機器も資材も、お金で解決できる問題でした。しかし、最も困難だったのは、営業員がお客様に”価値”を語れるようになるまでの育成でした。「作業を売る」から「価値を売る」への転換は、思考のOSを入れ替えるようなものだったのです。
プロジェクトが生んだ、4つの成果
10か月間の挑戦の結果、私たちは4つの成果を得ました。
プロジェクトの成果
📈 事業成果①:新規顧客獲得につながった
📈 事業成果②:価値の可視化により契約継続率アップ
📈 事業成果③:継続的な値上げを実現できた
🌱 組織成果:営業担当が「顧客とのコミュニケーションの重要性」に気づいた
10年経った今も、最も誇りに思う成果
実は、上記4つの成果よりも、私が10年以上経った今も、最も誇りに思っている成果があります。
それは、現場スタッフの自己肯定感アップでした。
数値化と聞くと「管理が厳しくなる」と警戒される現場スタッフも多いですが、実際には逆でした。
「自分たちの仕事が、こういう数値で施設オーナーに評価されている」と分かった瞬間、現場スタッフの表情が変わったのです。
自分たちが提供している価値を、初めて自分の目で「見える形」で確認できた瞬間の、あの誇らしい表情。今でも忘れられません。
このプロジェクトで最も価値があったのは、売上でも新規顧客獲得でもなく、「現場で働く仲間たちの、自己肯定感」だったのかもしれません。
性能発注方式は、単なる契約方式ではありません。事業を成長させ、組織を強くする経営ツールだと、私は確信しています。

性能発注方式の導入4ステップ
性能発注方式を効果的に導入するための4つのステップを解説します。
ステップ1:SLAによる目標設定
まず、SLAを通じて、施設オーナーと協議の上、清掃目標を設定します。清掃する各エリアごとに求められる清潔度や衛生基準を具体的に定義します。
たとえば、施設エントランスでは「常に床にホコリがない状態」、トイレなら「悪臭がしない、ペーパーやソープなど備品の欠品がない」といった具合に、出来栄え100点の状態を具体的に設定します。
ステップ2:KPIによる評価指標の設定
SLAで設定した目標を数値で評価できるよう、KPIを定めます。床の清潔度を「光沢度」で測ったり、トイレの消臭効果を「臭気レベル」で確認するなど、清掃の成果が明確に数値化できる指標を設定します。
💡 私の経験から
医療施設向けプロジェクトでは、利用者が触れるドアノブなどのハイタッチポイントに付着したATPを測定し、環境の清浄度を数値化しました。「食品衛生の技術を清掃現場に持ち込む」というアイデアは、当時としては先進的な取り組みで、医療施設から大きな注目を浴びました。
ステップ3:スタッフ教育と基準の共有
清掃品質基準を実現するため、スタッフ教育は欠かせません。全スタッフがSLAやKPIを理解し、基準に沿った清掃結果を提供できるよう、基準設定の意図や評価指標を共有します。
具体的には、再汚染防止のための手袋着用やクロスの使い方など、多岐にわたる見直しが必要です。スタッフが基準を意識して清掃に取り組むことで、清掃品質のばらつきを減らし、安定した出来栄えを提供できるようになります。
ステップ4:定期的な検査と改善
清掃品質が目標に達しているか、定期的な品質検査を行い、改善が必要な箇所があれば指導や再作業を行います。KPIを基にした検査であれば、どの部分が品質に達しているかをデータで判断できるため、効率的で合理的な改善が可能です。
定期的な評価と改善を繰り返すことで、清掃品質を維持でき、オーナーや利用者の満足度も継続的に向上します。

導入時の3つの落とし穴と回避法
性能発注方式の導入には、私自身が10年前のプロジェクトで身をもって体験した3つの落とし穴があります。事前に知っておくだけで、失敗のリスクを大きく減らせます。
落とし穴①:基準設定が現場実態と乖離する
KPIの設定は、現場の実態を反映し、達成可能なものにする必要があります。無理な目標設定はスタッフに負担をかけ、モチベーションを低下させる原因になります。
💡 回避法
目標は高くても、実現可能で、現場の実態に合わせた指標を設定してください。現場スタッフとマネジャー、そしてオーナーの三者で、事前に十分な議論をすることが不可欠です。
落とし穴②:定期的な見直しを怠る
清掃品質の維持と向上のためには、KPIの進捗を定期的に確認し、必要に応じて基準を見直します。
💡 回避法
利用者や施設の変化に応じて基準を調整することで、継続的に高い清掃品質を保てます。導入時に設定した基準を、そのまま数年放置するのは危険です。
落とし穴③:オーナーとの認識ズレ
清掃品質が実際に目標を達成しているか、施設オーナーとのコミュニケーションを取りながら進めることが大切です。
💡 私の経験から
プロジェクトで最も難しかったのは、営業員が顧客に「価値」を伝える能力の育成でした。数値を見せるだけでなく、その数値が意味する”顧客にとってのベネフィット”を語れなければ、性能発注方式の価値は伝わりません。「作業代替」から「衛生的な空間・ウイルスコントロール」へのリフレーミングが不可欠です。

よくある質問(FAQ)
Q1. 性能発注方式と仕様発注方式の違いは何ですか?
仕様発注方式は「どのエリアを、いつ、何分間清掃するか」という作業量を約束する契約です。一方、性能発注方式は「どの水準の清掃品質を維持するか」という成果(性能)を約束する契約です。従来のビルメンテナンス業界では仕様発注が主流でしたが、人手不足や品質重視の流れから、性能発注への移行が進んでいます。
Q2. SLAとKPIの違いは何ですか?
SLA(Service Level Agreement)は「サービス品質保証」で、達成すべき基準値を定義します。例:「トイレの消臭効果を保つ」。KPI(Key Performance Indicator)は「重要業績評価指標」で、SLA達成を測定する具体的な数値です。例:「消臭率○○%以上」。SLAが”約束”、KPIが”測定方法”と考えると分かりやすいでしょう。
Q3. 性能発注方式は小規模ビルにも導入できますか?
はい、可能です。ただし、規模に応じたKPI設計が重要です。小規模ビルでは、高価な測定機器を全面導入するよりも、目視チェックリストやシンプルな臭気測定など、運用コストに見合った評価方法を選ぶのが現実的です。私自身の経験では、小規模施設向けサービスこそ「作業代替」から「価値提供」への転換が必要な分野です。
Q4. 性能発注方式を導入すると、清掃料金は上がりますか?下がりますか?
短期的には、KPI測定機器の導入や現場マネジメント強化のコストが発生するため、料金は据え置きまたはやや上昇する傾向があります。ただし、私自身が10年前に医療施設向け新サービス開発を担当した経験から言えば、性能発注方式は”値上げ”より”付加価値向上による適正価格化”の文脈で理解する方が実態に合っています。価値の見える化を根拠にした価格交渉により、契約継続率と単価の両方を継続的に向上させることが可能です。
Q5. ATP測定のような数値化ツールは、どこから導入できますか?
ATP測定器は、食品衛生管理機器メーカーや業務用衛生機器の販売店で入手できます。ただし、機器だけを導入しても効果は限定的です。「どのKPIをどう測定し、結果をどう顧客に伝えるか」という運用設計と、営業員の育成をセットで考える必要があります。導入検討段階からのご相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
Q6. 現場スタッフや顧客への説明で、最も気をつけるべきことは?
「作業を代替する」から「衛生的な空間を提供する」への思考転換です。私が10年前のプロジェクトで最大の壁だと感じたのは、機器や資材の問題ではなく、営業員がお客様に「価値」を語れるようになるまでの育成でした。数値そのものではなく、数値が意味する”顧客にとってのベネフィット”を伝えることが本質です。
まとめ|性能発注方式は、事業の付加価値を可視化する経営ツール
性能発注方式は、清掃業務を効率化し、質の高いサービスを提供するための画期的な方法です。しかし、私の10年以上の経験から言えば、その本質は「事業の付加価値を可視化する経営ツール」にあります。
品質を「見える化」することで、施設オーナーの信頼を得られ、契約継続率が上がり、継続的な値上げも実現できる。何より、現場スタッフの自己肯定感という、数値化できない大切な価値まで生み出せる。
2026年からは「取適法」も施行され、価格転嫁と付加価値経営の時代が本格化します。性能発注方式は、この時代の変化に対応する最強の武器になるでしょう。
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ビルメンテナンス業界で新サービス開発を経験した中小企業診断士が、貴社の状況に合わせた導入戦略を一緒に考えます。
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