こんにちは 大阪・堺の中小企業診断士 山本哲也 です。
前回は「数字で裏付けるリサーチ」の話をしましたが、「じゃあ集めた気づきをどう活かすの?」という声を多くいただきました。
そこで今回は、アイデアを“実際のサービス”へ育てる6ステップについて一緒に考えてみましょう。
まず現場へ―アイデアの“帰港地”をつくろう
拙著の第9章は「現場に足を運び、お客さまと同じ空気を吸う」ことを出発点にしています。
なぜ、このようなことを最初にお伝えしたかと言うと、ひとは、机の前にいるだけでは、途中で道に迷いやすいからです。
ところが、実際に店頭や利用シーンをのぞくと、「あっ、こんなふうに困っていたんだ」と五感で理解できます。ここで得た温度と感情は、あとで悩んだときに戻ってこられる“帰港地”になるのです。
私がお勧めしている今日からできる小さな一歩は、「5分だけ店頭を見学し、気づきをスマホにメモ」や「ターゲットユーザーのSNS投稿をスクリーンショット保存」です。
どちらも簡単・短時間でできることです。できれば、どちらのアクションも外出先で
してください。理由は、時間を無駄にしないこと、見込み顧客に近づけること、歩い
ているとき移動しているときは脳が活性化し、よりよいアイデア発想に繋がるからです。
ペルソナを描き、悩みを言葉にする
解決したいと考える顧客の課題を発見したら、次は、ペルソナを考えましょう。
このペルソナという言葉を耳にしたことはありますか?マーケティングの世界の言葉のため、聞き慣れない方も多いかもしれませんね。
ペルソナとは、「自社の商品・サービスを活用していただけそうな理想のお客様像」のこと。
ペルソナを作成することで、開発する商品・サービスの仕様やデザインに迷いがなく
なります。既存顧客への提案にはそれほど迷わないと思うのです。それと同じよう
に、架空のお客様にオーダーメイドの商品・サービスを企画するのです。
えっ?!「この世にいない架空の人物のための商品・サービスを考えるの?」と思っ
たかもしれませんが、あなたが発想した顧客課題の持ち主は、この地球上のどこかに
必ず存在します。断言します。
そして、マーケティングの世界では、「一人の顧客を見つければ、100人の顧客がすぐに見つかる」と言われています。ご心配なく。
とはいえ、本当に100人しか居なければビジネス的には困るのですが・・・。
そちらもご心配なく!
人は、100点満点の商品・サービスでなくてもお金を支払うため、実際にはその数倍は見つかるはずです。
まだまだ、ここでは、仮説の段階のお話です。今後の開発過程でブラッシュアップすることで、より多くのユーザーから「欲しい」と言われる事業にアップデートされます。
そして、肝心のペルソナの作り方ですが、いたって簡単です。
理想のお客さまを想像して、彼・彼女のプロフィールを詳細に書くだけです。
年齢・性別・居住地域・仕事・スマホキャリア・1日の行動などなど、どんどん具体
的なエピソードを創作しましょう。できれば、チームメンバーと一緒に楽しく作業す
ることをお勧めします。チームの一体感醸成にも役立ちますし、ペルソナの解像度が
アップするからです。
ペルソナが完成したら・・・
ペルソナが完成したら、次は、課題メモです。
課題メモは、ペルソナが「お金を払ってでも何とかしたい」困りごとを短い文で列挙
することで作成します。こちらもチームメンバーと付せんや模造紙と囲んでワークシ
ョップ形式でやってみましょう。困りごとを考えると同時に、今どんな方法でしのい
でいるのか?その解決方法の不満は何か?についてブレーンストーミングを実施してみましょう。
もし、なかなかうまくいかないようでしたら、3人ほど実在の顧客に5分だけ電話インタビューをお願いします。たったそれだけのちょっとしたインタビューをするだけでもリアルな体験や言葉が拾えるはずです。
付せん3ステップでアイデアを磨く
とはいえ、アイデアを出すのもなかなか大変な作業ですよね。そこで私がよくご提案するのは、「付せんを使ったブレーンストーミング」です。手順は次の通り。
1. 発散
とにかく、付せんに頭に浮かんだことを1つずつサインペンで殴り書き(時間制限あり)。ボールペンでは見づらいのでここはサインペンを推奨します。また、時間制限を設けてください。人間は、何らかの制限があった方が脳が回転するようです。
2. まとめ
付せんを書いたメンバーから、内容の補足を口頭でしてもらい、内容が似ている付せ
んは近くに集めて貼り直します。次に、どのグループにも当てはまらないアイデア
や、今求めているアイデアとは違うものは、模造紙の外か端に「パーキングエリア」
と言う名の一時退避場所を設けそこへ移動します。
最後に、集めた付せんたちにグループ名をつけてあげましょう。(例:時短、安心)。
ここで、求めているアイデアではないものを排除しないのには理由があります。ここでファシリテーターなり、リーダーが「これは違うよね」なんて判断してしまうことを避けるためです。
理由は二つあります。
一つは、誰のアイデアも否定されない心理的安全性の高い場を作るためです。これにより、みんながアイデアを出しやすい雰囲気を作ることになり、場が活性化します。
次に、その移動したアイデアは、実は革新的過ぎて、その場の人たちが理解できないだけかもしれないからです。開発段階がどこかで頓挫した時に活躍するアイデアかも知れないのです。
3. 優先づけ
グループ化した付せんを確認しつつ新たなアイデアを書き加えます。
次に、グループ名を書いた付せんを整理するために移動させます。移動先には、縦軸「お客さまがうれしい度」、横軸「自社が実行しやすい度や自社がトライすべき度」のマトリクスを書いて置きます。
そして、付せんをそれぞれどのあたりに位置するのかをメンバーで話し合いながら、グループ名の付せんを貼っていきます。
少々時間のかかる作業ではありますが、新たな商品・サービスについて考える貴重な時間となります。1~2時間程度と制限時間を設け、集中して取り組みましょう。
必ず何か新しい発見に出会えるはずです。
1枚で全体を見渡す――リーンキャンバス
開発段階が進み、展開したい商品・サービスがおおむね見えてきたら、一度リーンキャンバスを作ってみましょう。
リーンキャンバスとは、自分たちの頭の中にあるアイデアがビジネスとしてどのよう
に成立するのか?についての全体像を表現するワークシートです。
起業家の アッシュ・マウリャ 氏が、ビジネスモデルキャンバスを新規事業でも使いやすいようにアレンジしたと言われています。
ビジネスモデルと聞くと難しそうに感じますが、9つの箱に“誰に・何を・どう届け、どう稼ぐか”についてアイデアをヌケモレなく考えるためのメモ用紙だと思ってください。
リーンキャンバスの詳しい解説は、ネット検索でもたくさん情報はあると思いますが、もしよかったら、拙著を手に取っていただけると嬉しです。
ここでは、なんとなくご理解いただけるようにざっくりと説明させてください。
上のイラストのように9つのマスを書き、以下の要素について、書き出して使います。
ビジネスアイデア「通勤時間を利用して学習する語学アプリ」(仮)
枠 | ひとことで言うと… | よく入る内容の例 |
❶ 課題 | 顧客が困っていること | 「通勤時間が長く退屈」 |
❷ 顧客セグメント | どんな人がその課題で困っている? | 首都圏の20〜30代通勤者 |
❸ 価値提案(USP) | “選ばれる理由”となる独自の価値 | スマホで1分以内に聴ける“ながら英会話” |
❹ ソリューション | 課題をどう解決するか | ポッドキャスト形式アプリ |
❺ チャネル | 顧客に届ける手段 | App Store広告、通勤向けSNS |
❻ 収益の流れ | お金をどう稼ぐ? | 月額サブスク500円 |
❼ コスト構造 | 主な支出 | 音声制作、人件費、サーバー費 |
❽ 主要指標 | 成功を測る数値 | 月次継続率、平均再生数 |
❾ 圧倒的優位性 | 競合が真似しにくい強み | 有名講師の独占コンテンツ |
はじめて書くときのポイント
・完璧さよりスピード:まずは仮説を形にして、あとで直す前提で作りましょう。
・数字はざっくりでOK:収益やコストは見積りや当てずっぽうで構いません。
・1ターゲット(市場)
=1キャンバス:ペルソナが全く違う場合は、別に作成します。
リーンキャンバスは「書く → 試す → 書き直す」を高速で回すための シンプルな羅針盤の役割を果たします。まずは一度作ってみることをお勧めします。
お金のハードルは“短く”越える
設備やシステム導入が必要なら、国や自治体の補助金をのぞいてみましょう。
省力化補助金(一般型):ロボットや RPA など自動化設備に最大1億円、補助率は原則1/2。
新事業進出補助金:既存とは異なる市場での設備投資に最大9,000万円。
いずれも「賃上げ計画込み」が最近の傾向です。詳細や公募時期は年度ごとに変わるので、最新情報をご確認ください。
おわりに――“共感と数字”でひらめきを育てよう
1. 現場へ行き、共感から始める。
2. 付せん3ステップで発散と収束を繰り返す。
3. リーンキャンバス1枚で全体像を共有。
ひらめきはビジネスの火種。でも、「共感・数字・試行錯誤」という“薪”をくべてこ
そ、大きな炎になります。今回のコラムが、あなたの次の一歩を照らす灯になります
ように。
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自社にとって「本当に必要な企画」とは何か?
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それでも、モヤモヤが解消しない場合は、ぜひ一緒に考えさせていただきたいです。
コラムのご感想や具体的なご相談はこちらから、お気軽にお聞かせください!
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。