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【価格転嫁コラム第7弾】値上げを渋る担当者は、あなたの敵ではありません。稟議に添付できる提案書が、労務費の転嫁を動かす

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【価格転嫁コラム第7弾】値上げを渋る担当者は、あなたの敵ではありません。稟議に添付できる提案書が、労務費の転嫁を動かす

最終更新日:2026/09/13

みなさん、こんにちは!
経営のモヤモヤをワクワクに変える! ビジョン実現パートナー山本哲也です。

9月は「価格交渉促進月間」。政府が毎年9月と3月に設定している、価格転嫁の交渉を後押しする期間です。

でも正直なところ、「言い出せないまま、今年の9月も終わりそう」。そんな方、いらっしゃいませんか。

前回(第6弾)は、交渉の根拠になる公表データの集め方をお伝えしました。最低賃金、春闘の妥結額、物価指数。武器はそろった。でも、引き金が引けない。

今日はその一歩先です。相手が首を縦に振れない、本当の理由の話をします。

「値上げ」と口にした瞬間、担当者の顔が曇る理由

前職で、私はビルメンテナンスの現場を担当していた時期の話です。

毎月、クライアントにお願いして定例会議を開催していました。詳しくは別のコラムでお話ししますが、その会議のテーマは以下のとおりです。

  • 清掃作業の実績報告:計画との差異について報告します。どこができて、どこに労務費が多く注がれたか。
  • スタッフの入退社や教育実績
  • 施設を回って見つけた不具合や問題点など、日報で報告したことのサマリ

実は、まだまだあるのですが、そのお話はまたいつかじっくりページを割いてお伝えします。とても書ききれないですし、その会議自体に売上アップや価格転嫁の大きなポイントが含まれているからです。

会議の最後には、それまでに報告した事実に基づいた改善策を提案します。ところが話が具体的な費用と実施計画に移ると、担当者の顔が曇るのです。

最初は「予算がないんだな」と思っていました。でも、よくよくコミュニケーションを取ってみると、返ってきた言葉はこうでした。

「山本さんの提案は、どれも評価しています。取り組むべきだというのも、そのとおりだと思う。ただ、施設管理にかける費用を増やすのは、社内での交渉がとても大変で。それを考えると、憂鬱になるんです」

値上げを渋っていたのは、私たちを安く使いたかったからではありませんでした。社内を通せる自信がなかったのです。

目の前の担当者は、敵ではない。同じ側に立って、社内という別の相手と戦わなければいけない人だった。ここに気づいたことが、私の転機でした。

国は2026年1月、"後ろ盾"を一段強めました

ここで制度の話をさせてください。

内閣官房と公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(労務費転嫁指針)。2023年11月に策定され、令和8年(2026年)1月に改正されました。

改正の核心はここです。

受注者から協議の要請があったにもかかわらず、これに応じず一方的に取引価格を据え置くことは、「協議に応じない一方的な代金決定」に当たる。

2026年1月に施行された取適法(中小受託取引適正化法。旧・下請法)で新しく禁止された行為に、指針が正面から紐づけられたわけです。

指針が示す行動は、全部で12。内訳はこうなっています。

立場行動の数
発注者として採るべき行動/求められる行動6つ
受注者として採るべき行動/求められる行動4つ
発注者・受注者の双方が採るべき行動/求められる行動2つ

まず、発注者に求められる6つから見ていきましょう。これは「相手がやるべきこと」であり、そのまま「あなたの後ろ盾」になります。

発注者として採るべき行動/求められる行動
①経営トップの関与
②発注者側からの定期的な協議の実施
③説明・資料を求める場合は公表資料とすること
④サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと
⑤要請があれば協議のテーブルにつくこと
⑥必要に応じ考え方を提案すること

文字だけではピンとこないと思いますので、一つずつ、指針に載っている実例とあわせて見ていきます。

① 経営トップの関与

労務費の上昇分を転嫁する方針を経営トップまで上げて決定し、書面など形に残る方法で社内外に示し、その後の取組状況を定期的にトップへ報告する。

指針の実例
・パートナーシップ構築宣言を労務費転嫁指針に沿った内容へ改定し、全受注者に一斉通知した(はん用機械器具製造業)
・取引説明会で、社長が受注者のトップに転嫁方針を直接説明した(生産用機械器具製造業)

受注者としての使いどころ 取引先がパートナーシップ構築宣言をしているかは、ポータルサイトで誰でも確認できます。宣言していれば、「御社の宣言にもあるとおり」から話を始められます。

② 発注者側からの定期的な協議の実施

受注者から求められていなくても、1年に1回や半年に1回など、発注者側から協議の場を設ける。特に、長年価格が据え置かれてきた取引や、スポット取引と称して長年同じ価格で更新されている取引は、協議が必要だと明記されています。

指針の実例
・毎年4月・5月を価格転嫁交渉の集中月間と定めて一斉に実施。あわせて契約の自動更新条項を設定しないことにした(放送業)
・2月と8月の年2回、受注者が交渉を申し出やすい決算期前に「価格転嫁確認レター」を発信している(電気機械器具製造業)
・全受注者を対象に、3月と9月の年2回、要望を確認する場を設けている(道路貨物運送業)

受注者としての使いどころ 「そちらから声をかけてもらえませんか」と頼んでいいのです。それが指針の求める姿です。

③ 説明・資料を求める場合は公表資料とすること

根拠資料の提出を求めるなら、公表資料(最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率など)に基づくものとする。そして受注者が公表資料を用いて示した希望価格は、合理的な根拠のあるものとして尊重する。

指針の実例
・転嫁を要請された労務費上昇分が公的指標に照らして低いと思われる事業者には、公的指標に基づく上昇分まで転嫁を受け入れている(生産用機械器具製造業)

受注者としての使いどころ 自社の給与台帳や決算書を丸ごと開示する必要はありません。公表データで足ります。前回のコラムが、そのまま武器になります。

④ サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと

直接の取引先である受注者が、さらにその先の取引先との価格を適正化すべき立場にいることを常に意識し、それを要請額の妥当性の判断に反映させる。

指針の実例
・受注者に工事全体の施工業者がわかる資料を出してもらい、その先への転嫁状況まで確認している(総合工事業)
・受注者の先の取引先のドライバー数などの実態も把握し、要請額にその値上げ分が含まれているかを確認したうえで、妥当なら受け入れている(道路貨物運送業)

受注者としての使いどころ 自社の労務費だけでなく、外注先・協力会社の上昇分も乗せて要請してよいということです。ここは見落としがちです。

⑤ 要請があれば協議のテーブルにつくこと

労務費の上昇を理由に引上げを求められたら、協議のテーブルにつく。労務費の転嫁を求められたことを理由に、取引を停止するなど不利益な取扱いをしない。 さらに、過去に引き上げた賃金分だけでなく、今後賃上げするために必要な分の転嫁も、同様に協議の対象とされています。

指針の実例
・工数が当初予定より増える場合や作業難度が上がる場合の引上げ要請があれば、必ず速やかに協議の場を持つ(情報サービス業)
・受注者のコストのほとんどは労務費なので、労務費の上昇だけを理由とした要請にも協議に応じている(はん用機械器具製造業)

受注者としての使いどころ ここが最重要です。「言ったら切られる」への歯止めが、指針に明文化されています。そして「これから賃上げするための原資」も、堂々と交渉していいのです。

⑥ 必要に応じ考え方を提案すること

受注者からの申入れの巧拙にかかわらず協議を行い、必要に応じて、労務費上昇分の価格転嫁に係る考え方を発注者側から提案する。

指針の実例
・協議用のフォーマットをあらかじめ受注者と共有しており、受注者が労務費転嫁を言い出しにくい場合は、その用紙に書いて提示してもらうことにしている(映像・音声・文字情報制作業)

受注者としての使いどころ 指針は「発注者のほうが多くの取引先を持ち、要請額の算定方法について多くの情報を持っている」と明記しています。つまり「計算の仕方がわからないから言えない」は、指針の前提では通用しません。 わからないと正直に言って、考え方を提案してもらえばいいのです。

そして、あなたがやるべき4つ

発注者の6つが「後ろ盾」なら、受注者の4つは「明日からの行動」です。

  • ⑦相談窓口の活用
    国・地方公共団体、商工会議所・商工会などの支援機関に相談し、情報を集めて交渉に臨む。
  • ⑧根拠とする資料
    最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額などの公表資料を用いる。
  • ⑨値上げ要請のタイミング
    定期的な価格交渉の時期、業界の定期交渉期、発注者の繁忙期など、自社の交渉力が比較的優位なタイミングを使う。
  • ⑩発注者から価格を提示されるのを待たずに、自ら希望する額を提示する
    自社の労務費だけでなく、自社の発注先やその先の労務費も考慮する。

残る2つは、発注者・受注者の双方に求められる行動です。

  • ⑪定期的なコミュニケーション
  • ⑫交渉記録の作成と、双方での保管

⑫について指針は、こう補足しています。発注者にも受注者にも人事異動がある。記録を残しておけば、担当者が代わっても次回以降の交渉をスムーズに始められる、と。

さて。ここで、先ほどの話に戻ります。

毎月の定例会議。実績の報告。日報のサマリ。あれは、⑪と⑫そのものでした。指針が2023年に文書化したことを、私たちは現場で、何年も前から続けていたのです。

そしてもうひとつ。⑧根拠とする資料のところで、私が「これは使える」と膝を打った記述があります。

指針には【警備業】の事例として、最低賃金の上昇率と、国土交通省「建築保全業務労務単価」の推移を根拠に交渉を進めたと書かれています。

清掃、設備、警備。労務費が原価の大半を占める労働集約型のサービス業が、国の指針に名指しで登場しているのです。「この業種は、こう交渉してよい」と国が書いている。これ以上の後ろ盾はありません。

他業種の方も、やることは同じです。自社の労務費を裏づける公的な単価や指標はどれか。それを1つ決めるだけです。

交渉を動かしたのは、「稟議に添付できる提案書」でした

では、担当者が社内を通せるようにするには、何を渡せばいいのか。

私たちがやったのは、こうです。

問題点・課題・改善策を、写真と図表でわかりやすく提案書にまとめました。毎日その現場を清掃している私たちの提案です。だから、その改善策を一度、無料で実行してみて、その結果を報告しました。 いわゆるサンプル提供やお試しサービスと呼ばれるものですね。みなさんの事業でも、なんらか同じようなことができるのではないでしょうか?

  • いつ、誰が、どんな方法でクリーンアップしたか
  • どれくらいの時間がかかったか
  • どれくらいのスキルが必要だったか
  • そこから見えてくる、妥当な作業計画と頻度

提案は必ず2案。ベターな案とベストな案です。1案では「やるかやらないか」ですから、最低でも2案、できれば3案程度を提案します。こうすれば、人はどれかを採用したくなるものです。あわせて優先順位のマトリックスを添付しました。軸はシンプルに、コストの大きさと、必要性・効果。

要するに、担当者がそのまま稟議に添付して上申できるところまで、私たちが仕上げたのです。

これは、指針が発注者に求めている⑥「必要に応じ考え方を提案すること」を、受注者の側から先回りしてやったことになります。待たずに、自分から材料を差し出す。

すべての提案が通ったわけではありません。でも、優先度の高いものから順に採用されるようになりました。

予算が本当に厳しいクライアントには、こう提案しました。「今ご契約いただいている作業を一部カットして、代わりにこちらを入れませんか」。売上は増えません。でも満足度は上がるし、料金の見直しの際は、必ず労務費上昇分を反映させていましたので、長い目で見れば、そこが私たちの最大のメリットでした。

そして一番大きな成果は、金額そのものではありませんでした。「仕様と料金は、定期的に見直すもの」という前提を、相手と共有できたことです。

一度この流れができると、見直しのタイミングごとに労務費を少しずつ転嫁していくことが、ごく自然になりました。長年据え置かれた単価という、いちばん動かしにくい慣性が切れたのです。

指針が「特に長年価格が据え置かれてきた取引には協議が必要」とわざわざ書いているのは、まさにこの慣性の重さを知っているからだと思います。

9月下旬、30万社に調査票が届きます

促進月間のあと、中小企業庁は受注側中小企業30万社を対象にフォローアップ調査を実施します。主要な発注企業(最大3社)との価格交渉・価格転嫁・支払条件を聞かれます。

ここで必ず出る本音があります。「取引先の名前を書くのが、怖い」。

私が皆さんの立場でも、きっと同じことを考えます。ただ、その心配のうち半分は、いりません。

  • 公表されるのは、発注企業ごとに回答を集計した「発注者リスト」です。企業名、回答企業数、価格交渉・価格転嫁の評価(ア/イ/ウ)が並びます
  • あなた1社の回答が、名指しで公表される形ではありません
  • リストに載るのは、10社以上の回答者から「主要な取引先」として挙げられた発注企業です

残りの半分については、正直に申し上げます。報復のリスクがゼロだと、私が保証することはできません。ただ、公正取引委員会には匿名の情報提供フォームもあります。そして何より、答えない企業が多いほど、この国の転嫁率は動きません。

2026年3月時点の価格転嫁率は54.2%。前回から約1ポイント増です(経済産業省、2026年6月26日公表)。1年半かけて、1ポイント。

この数字を動かすのは、制度ではありません。1社ずつの、1回の交渉です。

今週、何から始めますか

先送りはやめましょう。 9月は残り2週間ちょっとです。

  1. 自社の労務費が、この3年で何%上がったかを出す(給与総額でかまいません)
  2. 根拠になる公的データを1つ選ぶ(最低賃金の上昇率、建築保全業務労務単価など)
  3. 「稟議に添付できる1枚」をつくる。現状・課題・改善案(ベター/ベスト)・優先順位

そして、指針の⑦相談窓口の活用を思い出してください。国が「支援機関に相談して情報を集めて交渉に臨め」と書いているのです。ひとりで抱える必要はありません。

3番だけは、ひとりでやるとしんどいです。無料60分ではありますが、無料相談をお受けしております。ペースメーカーや壁打ち相手が必要なら、声をかけてください。

よくあるご質問

労務費転嫁指針は、2026年1月に何が変わったのですか?

大きく4点です。①取適法の施行を踏まえ、受注者からの協議の要請に応じず一方的に価格を据え置くことは「協議に応じない一方的な代金決定」に当たると明記された。②令和6年度・7年度の特別調査を踏まえ、情報サービス業・総合工事業・放送業・道路貨物運送業・はん用機械器具製造業などの先進事例が追加された。③指針策定当時の記載が見直された。④「下請」の用語が修正された。12の行動という枠組み自体は変わっていません。

取引先が価格交渉に応じてくれません。法律違反になりますか?

指針は、受注者から協議の要請があったにもかかわらず応じず一方的に価格を据え置くことは、中小受託取引適正化法(取適法)上の「協議に応じない一方的な代金決定」として問題となるおそれがある、と明記しています。また、明示的に協議することなく長年価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用または取適法上の買いたたきとして問題となるおそれがあるとされています。個別の事案が違反に当たるかの判断は行政が行いますので、まずは公的な相談窓口にご相談ください。

労務費の値上げを要請するとき、どんな根拠資料を用意すればいいですか?

指針は、公表資料を用いることを求めています。具体的には最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率など。労働集約型のサービス業であれば、国土交通省「建築保全業務労務単価」の推移も指針に事例として挙がっています。自社の給与台帳や決算書を丸ごと開示する必要はありません。

価格転嫁を要請したことで、取引を切られるのが心配です。

指針は発注者の行動⑤として、労務費の転嫁を求められたことを理由に取引を停止するなど不利益な取扱いをしないことを明記しています。あわせて、公正取引委員会は事業者が匿名で情報提供できるフォームを設けており、第三者に情報提供者が特定されない形で各種調査に活用するとしています。

フォローアップ調査に回答すると、取引先に知られてしまいますか?

公表されるのは発注企業ごとに回答を集計した「発注者リスト」で、企業名・回答企業数・価格交渉と価格転嫁の評価が並びます。受注側1社の回答内容が名指しで公表される形ではありません。 リストに掲載されるのは、10社以上の回答者から「主要な取引先」として挙げられた発注企業です。

自社の労務費上昇率を計算できません。それでも交渉できますか?

できます。指針は発注者の行動⑥として、受注者からの申入れの巧拙にかかわらず協議を行い、必要に応じて価格転嫁の考え方を提案することを求めています。発注者は多くの取引先を持ち、算定方法について多くの情報を持っているという前提に立っているためです。まずは公表データを1つ手に、協議を申し入れてください。

価格交渉は、相手を負かす競技ではありません。

相手の担当者が社内で勝てるように、材料をそろえる仕事です。

その視点に立てた会社から、単価は動き始めます。

\初回無料・オンライン対応/

※本コラムは2026年9月13日時点の公表資料に基づいています。制度の詳細および最新情報は、内閣官房・公正取引委員会および中小企業庁の公表資料をご確認ください。個別の事案が法令違反に当たるかどうかの判断は行政が行うものであり、本コラムは一般的な情報提供を目的としています。

※主な参照資料:内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」/経済産業省「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します」(2026年6月26日)