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NPO法人子育ては親育て・みのりのもり劇場

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NPO法人子育ては親育て・みのりのもり劇場

最終更新日:2023/08/10

今回の経営者インタビューは、中小企業でもなく、個人事業主でもなく、NPO法人です。

NPO法人子育ては親育て・みのりのもり劇場」さん

今回お話を伺ったのは、「NPO法人子育ては親育て・みのりのもり劇場(以下「みのりのもり」)」さんです。「みのりのもり」さんが企画して、京都の障がい者施設に製作を依頼しているこのSDGsバッジ。このバッジを京都在住の知人から分けてもらったことがきっかけです。

このバッジは、みやこ杣木(そまぎ)という京都産のヒノキの間伐材を活用しており、森を守りつつ、障がいのある人たちの多様な働き方を支援する目的で企画制作されています。京都の障がい者施設が仕上げ作業を担当しており、誰でも手に入れることができます。

バッジの存在自体が、SDGsの思想に合致しているなんて、素敵だと思いませんか?知人からの問いかけに、「欲しい!」と即答しました。

お話を伺ったNPO法人事務局の森さんと西田さん(写真左が森さん、右が西田さん)のお二人は、4人でお邪魔しなければとても太刀打ちできないほどパワフルで、終始圧倒されっぱなしでした。

キネマ・キッチン

お邪魔したのは、「みのりのもり」が運営している、事務局の1Fにある“キネマ・キッチン”。

 

その名の通り映画をテーマにしたカフェです。看板メニューの「かつライス」は、超大物俳優の勝新太郎と市川雷蔵の「勝」と「雷」をかけあわせてつけたそうです。創業メンバーの森さんと西田さんからうかがった活動の歴史は、笑いあり涙ありで、まさに映画そのものでした。

<キネマ・キッチン詳細情報>

電話番号:075-871-6556
住所:〒616-8167 京都市右京区太秦多藪町43
営業時間:11:00〜18:00
定休日:年末年始

キネマ・キッチンは、料理もお店も手作りが自慢

カフェ“キネマ・キッチン”は、NPO法人が太秦の活性化などを目的にその経営を自らで担当しています。太秦といえば、“太秦映画村”というくらい関西では、知らない人のいない有名な観光スポットです。1900年代前半にできた「帝国キネマ太秦撮影所」(東映京都撮影所の前身)で働く映画人たちが集まり住んでいたことで、映画の街として発展したきました。

しかし、日本映画の人気が低迷するのに合わせて元気を失いつつありました。そこで、大映通り商店街振興組合のみなさんが、商店街の活気を取り戻す取り組みをスタートさせました。そこに、子育て支援団体だった「みのりのもり」が参画させてもらうことになりました。

この取組の目玉は、昭和四十一年の大ヒット映画「大魔神」に出てくる大魔神を商店街に連れてくるというビッグプランでした。版権元であった株式会社KADOKAWAを口説き落としに成功した彼女たちでしたが、それだけでは満足できず、このキネマ・キッチンを手作りしてしまいます。

“キネマ・キッチン”には、昔の日本映画のポスターや台本、撮影機材、小道具など映画関連グッズが、ところ狭しと常設展示されており、休日ともなると遠方から映画ファンがたくさん訪れるそうです。しかも、その展示品は、近所にお住まいの映画関係者や映画ファンが自主的に持ち込んで来られた逸品ばかりだそうです。

ここは、空き店舗になる前は、化粧品店だったそうで、鏡張りの壁を自分たちで割って木製の壁に変えたり、床板も買ってきて張り替えたり、子どもたちも動員して、手作りで改装をしたそうです!信じられますか?!

お二人の出会いは、お子さんの幼稚園(自然幼稚園)のPTA仲間だったそうです。園長先生が素晴らしい方で、“園長先生の会”という保護者が子育ての悩みを相談できる場を設けてくださっていました。ところが、肝心の相談に来てほしい、困っている人たちはなかなか来てくれず、先生は、途方にくれていました。そんな相談を受けて、PTAのOGであった彼女たちが考えたのが「お母さんたちによる、お母さんたちのためのセミナー」でした。自分たちの日々の子育てを、面白おかしいお芝居にして、その芝居をきっかけに子育ての悩みについてディスカッションをするという奇抜なアイデアでした。

誕生秘話

ここでも驚くことに、全員お芝居未経験者だったそうです。森さんから西田さんに「お芝居やらへん?」って送った一通のメールが“みのりのもり劇場”誕生の瞬間でした。すぐに西田さんから「マネージャー通してくれる?」って返信があったそうです。(笑)

素人だけのお芝居でしたが、初演から大盛況。笑いあり、感動ありで大ウケとなりました。そして、当初のイメージしていた通り、お芝居を観てもらった後のディスカッションでは、子育てに関する意見交換が気取らずでき、内容の濃いセミナーとなったそうです。

その理由をお二人に聞くと、まわりがみんな笑っているのを見て「あぁ、他のお母さんも同じことを悩んでいるんだな」と力が抜けて、素直な気持ちになれる。そして、なんでも話せるようになるのではないかと考えています。とのことでした。

お芝居が、団体名称の由来

“NPO法人子育ては親育て・みのりのもり劇場”という長い名前の由来も、うかがいました。

“みのり”は、幼稚園のイベントの名前が”みのりの会”だったので、そこから取り、“実る”という”成果”や”育てていく”につながる言葉と、それが森のように大きな成果になることを願ってみんなで話し合って決めたそうです。最後の“劇場”は、彼女たちのお芝居では、お母さんたちの子育ての日常を題材としていたため、お母さんみんなが主人公だし、また、みんなが誰かの脇役であり、お芝居そのものがたくさんの登場人物で成り立っているというようなところから「人生は劇場だ」と考えました。

また、「子育てを子どもたちだけに着目して、子どもを変えていこうとするのはナンセンスだよね。だって、子どもたちが育つ環境は、私たち大人そのものだから、大人が変わることのほうが先なんじゃないか?」という話になり、”子育ては親育て”というキーワードをつけたそうです。

そして、「こんな素晴らしい仲間が集まったのに、一過性ではもったいない。これからも活動を長く継続していこう」ということで、NPO法人を申請し、無事、認可を受けました。

15年以上も運営し、成長できた理由

NPO法人の現状

NPO法人の数は現在、全国で51,047(2020年8月末)ですが、近年は、純減傾向で、その平均寿命は10年程度。解散の理由の多くは「資金不足」「人材不足」「事業の失敗」「不正・不祥事」が目立ちます。また、「世代交代の失敗」「代表(理事)の死去・病気」も増えていて、代表者の58.7%が「65歳以上」で、世代交代に対する意識は高いが60%が「準備はあまり進んでいない」と答えています。

その理由は、「適当な候補者が見つからない」が(50.6%)でトップ、次いで「代表交代の準備をする余裕がない」(20.3%)、「組織の運営体制が整ってない」(16.9%)が続きます。「現代表の(資金などの)持ち出し、個人保証があり無理」「金融機関の信用が得られない」という財政的苦境をうかがわせるものもあります。

一方、「みのりのもり」は15年以上も続いています。その秘訣はというと、2つあるそうです。

・「これは面白いな」「楽しそう」っていうメンバーが集まっていたこと

・やりたいからやっているので、「誰かのため」というわけではない

この2点。

例えば、”キネマ・キッチン”では、スタッフのお子さんたちが、ランドセル姿で学校帰りに寄り道する声で賑わっています。夏休みの課題をみんなで取り組んだりしてまるで、自宅の居間の兄弟姉妹のようです。私たちは、子どもの頃に近所のおじちゃん、おばちゃんからいろんなことを教わったり、注意されたりして地域に育ててもらいました。そんな世界観を“キネマ・キッチン”で再現したいと考えています。
子どもたちが「大人になるのは嫌だな」じゃなくて、「あんなおじちゃん、おばちゃんになりたい」って思えるような町にすることを目指しています。
もう一つは、やはりお芝居の存在です。初演から大盛況で、その後も評判は口コミで広がり「うちにもきてください」とか「オリジナルで何かやってもらえませんか?といった調子で、すぐにあちらこちらから問い合わせが入るようになりました。
徐々に、幼稚園の保護者以外を対象にしたお芝居もやるようになりました。例えば、医療だったり、エコだったり、在日外国人だったり。遺言をテーマにしたときもありました。難しいテーマでもお芝居にすることで理解が進んだり、わからないところを聞きやすくなったりするそうです。
「さっきのあれはどういうことなんですか?」「この場合だとどうなるんでしょう?」とリラックスしながら自分の聞きたいことを聞ける雰囲気が生まれます。このようにお芝居を通じてみんなで悩みを共有して、ディスカッションをして「みんなの悩みを軽くしていけたらいいな」そんな町を作りたい。と考えてらっしゃいます。
なぜこのような流れになったかについてうかがうと、はじめは、自分たちの子育てを救いたくて、子育て支援から始めたのだが「子育ては親子だけでは解決できない」と気づいたことで、地域活性化やまちづくりに関わっていくようになったとのことです。
出所:みのりのもりWEBサイト>>

ミニコミ誌“右京じかん”を発行

みのりのもりでは、ミニコミ誌“右京じかん”を発行しています。

“右京じかん”のこだわりは、ミニコミ誌ではあるのですが、情報そのものではなく、情報の向こうにいる‘’ひと“を扱うことです。例えば、西田さんの方向音痴のおかげで予定していた企画通りの取材ができないことがあるそうです。でも、西田さんは、持ち前の行動力を発揮して、道に迷った先で出会ったひとの中から面白いひとを見つけて、しっかり取材をして帰ってきてしまうそうです。このように「それぞれの地域にどれだけ素晴らしい人がいるか」を伝えることを最も大切なミッションとして考えています。

取材させていただいたみなさんが、自らお知り合いに配り歩いて、PRしてくださって、事務局も知らない間に雑誌の設置場所が増えているなんてこともよくあるそうです。

こうして、このミニコミ誌はどんどん成長して、読者を増やしました。その結果企業さんからの相談を受けることが増えたそうです。「うちの会社のパンフレットを作って欲しい」や「地域に貢献できるようなビジネスがしたい」など地域住民との距離を縮めたいという課題を持っている企業が増えているようです。

セレクトショップ”はあと・フレンズ・ストア”の運営

一時期、みのりのもりが受託していた”はあと・フレンズ・ストア”は、「こだわりのある“いいもの”をお客様にプレゼントする」をコンセプトに、京都市内の障がい者が製作に携わったほっとはあと製品(授産製品)をセレクトして販売するお店です。

それまで、子育てや地域活性化などをテーマに活動していた彼女たちにとっては、初めて“障がい者福祉”というテーマを絞った事業でした。

“はあと・フレンズ・ストア”の商品は、素敵でクオリティの高い商品が多く、一昔前のイメージを持っていた彼女たちはとても驚かされました。そこで、その商品の良さが消費者に伝わるようにPRに注力します。

また、単に、作業所からお預かりした商品をそのまま販売するのではなく、値札やパッケージデザイン、キャッチコピーなど、作業所と意見交換をしながら販売しています。

福祉施設の利用者が作った製品だからではなく、「なんて素敵な商品!」と感じて手に取ったお客さんが、たまたま裏を見たら「これって福祉施設の人が作っているんだ」と知る。そういう商品、販売形態をつくっていきたいという思いがありました。

単に 福祉施設の利用者が作った製品ではなく、「なんて素敵な商品!」と感じて手に取ったお客さんが、たまたま裏を見たら「これって福祉施設の人が作っているんだ」と知る。そういう姿を目指して取り組まれていました。製品改良の努力を継続して行くことが、利用者さんの自立に少しずつでも繋がっていくと信じて取り組んでいました。

今回の訪問のきっかけとなったSDGsバッジもこのときに接点のできた施設で製作してもらったものです。以前は、作業風景の写真が媒体に掲載されることを嫌がる親御さんも、最近では、「どうぞ使って下さい」と自ら協力してくださるようになったとか。SDGsの活動の一端を我が子が担っていることを嬉しく感じるようになったからだそうです。

出所:はあと・ふれんず・ストアホームページより>>
(現在は、みのりのものもりの受託は終了しています。)

これまで活動の中で一番苦労したこと

苦労したことは?というと、自分たちの仕事に対する値付けだとのことでした。理由は、値段に見合うような成果を自分たちの活動が出せるのか?という心配にありました。しかし、NPOの活動を継続していくためにも、お金は、とても大切でした。

はじめは、「プロ意識を持って、仕事として取り組む」というところを意識するために、たとえ小さな金額でも頂いたお金をみんなで分けていたそうです。「金額の大小とは関係なく、私たちは、これでお金をいただくプロとしてやっていくんだ」という意識付けをするためでした。NPOには、自腹を切って活動しているところが多く、それも長期的に続けられない理由のひとつになっているようです。

今注目のSDGsにも自分たちのスタイルで関わっていく

彼女たちは、自分たちNPOの活動そのものが、広義で言うところのSDGsだと捉えています。ですから、これからなにか特別取り組みということは、考えていません。

一方で、これまでも同じような国際的な枠組みのイベントがたくさんありましたが、その中でもっとも浸透したのが、この“SDGs”だと感じている。だからこそ、このSDGsという概念を利用して、今まで自分たちができたことを、わかりやすく説明して、共感者を増やしたい。そして、しっかり定着させて、社会全体でSDGsに真剣に取り組めるようなムードを作りたいと言います。それができなければ、子どもたちの未来はないという状況だと考えています。

次の15年に向けて、組織体制を強化が課題

みのりのもりは、他のNPOが苦労している世代交代や組織の活性化については順調に進んでいます。

新しいお母さんが入ってきたり、子どもが大きくなって、スタッフとして帰ってきたりするなどによって、徐々にですが、活動人数も増えてきている。彼女たちがNPO法人を立ち上げたときの目標を「継続して次の代にも残せるようにしたい」としていたので、その道筋が見え始めたと感じている。

2007年に幼稚園のPTA繋がりで始まって、2009年には NPO になり、“右京じかん”を出すようになった。あっという間の15年だったが、今でも何かあると、「みんな集まって~。これってどう思う?」とみんなで話し合う。ときには、意見が分かれることもあったが、しっかり話し合って解決しているそうです。

今後は、自分たち(森、西田)が動きまわるのではなく、新しく入ってくる人たちの協力を得て、自分たちはプロデュース側に回るようにしたい。

今回は、NPO法人子育ては親育てみのりのもり劇場の森さんと西田さんに素敵なお話をたくさんうかがいました。ありがとうございました。みのりのもりがこれからどんな素敵な森に育っていくのか楽しみにしています。

私の地元、堺にも元気なNPO法人があるようです。
次はそちらにもお邪魔したいと思います。